第10話 隠れ拠点。粒子と術式と改良。
――なるほど……。周囲に常時発生させている『ニヒリスティックパーティクルスフィア』――虚無粒子圏域なるものが魔法の発動を阻害しているのか。
そうなると、やはりこの粒子のフィールドのようなものを展開させ続けるのに必要な『魔力の量』が、キャンセル可能な魔法の限界に直結するな。
というか、この粒子自体も魔法である事を考えると、敵も味方もこのガジェットを持っていた場合、両者のキャンセルがキャンセル――相殺されて無意味になるという、あまりにも大きすぎる欠点があるな……
このガジェットがその有用性に反して、現存している物が少ない……というか、遺跡からほとんど発見されないのは、案外この欠点のせいで、古の時代には使い物にならないと判断されて、あまり作られなかったとかなのかもしれないなぁ……
互いに所持していたら、どちらも魔法が使えない状態になるんじゃなくて、普通にどちらも魔法が使えるようになってしまうわけだし。
ラディウスがガジェットを解析しながらそんな事を考えていると、
「ラディウスさん、とりあえず設計図通りにガジェットを作り終えたですが、これで問題なさそうです?」
と、メルメメルアがそんな風に問いかけてきた。
「ん? ああ、どれどれ……」
ラディウスはそう言いながらメルメメルアからガジェットを受け取り、それを確認していく。
そして、
「うん、これで問題ないぞ。さすがだな」
と告げた。
「良かったのです!」
メルメメルアは喜びの笑顔と共にそう口にした後、机の上に置かれた魔法をキャンセルするガジェットへと視線を向けながら再び問いの言葉を投げかける。
「ところで、そちらはどんな感じなのです?」
「ああ。大体の仕組みはわかったが、これは相手が同じガジェット――正確に言うなら、同じ術式の組み込まれたガジェット――を所持していない事が前提の代物だな。両者とも所持していた場合、どちらも無効化されて普通に魔法が使えてしまう」
そうラディウスが言うと、ルーナが隣の机から顔だけラディウスの方へと向け、
「それって、かなり微妙な代物ね……。対策というか無効化を破る方法が簡単すぎるわ」
と、そんな感想を口にした。
「そうだな。魔法をキャンセル出来るというのは大きな利点ではあるが……簡単にその利点を潰せてしまうからな。今の時代に残存している数が極端に少ないのは、古の時代にその欠点が大きすぎると考えられたからなんじゃないかと思えるくらいだ」
ラディウスがそう推測を述べると、
「――その推測は当たっているかもしれないのです。私はプロトタイプに大きな欠点があり、その改善も難しいと判断された物が、そこで研究中止……あるいは開発中止とされてしまうのを、あの当時、結構見たのです」
と、メルメメルアが顎に手を当てながらそんな風に返す。
「まあ……『災厄』までの期間が判明していたのなら、少し時間をかけたくらいでは改善出来ないような研究や開発はさっさと放棄して、他の物を研究したり開発したりした方が良いというのはたしかだな」
「そうね。合理的に災厄への対処を進めるのであれば、正しい判断と選択ではあるわね。……それで? 結局使い物にならなさそうな感じ?」
ラディウスの発言に対して頷いてみせたルーナがそう問いかけると、
「相手が同じ物を持っていなければ有効ではあるな。もっとも、キャンセル出来る魔力の上限があるから、そこまで万能ではないが……」
と、そんな風に答えて首横に振って見せるラディウス。
しかしすぐにマジックストラクチャーを使って術式を表示させると、
「ただまあ……術式の仕組み自体には、ディーゲルさんの娘さんを元に戻す為に作ったガジェットを改良するのに役立ちそうな感じのする部分がいくつかあったけどな」
なんて事を告げた。
「あ、そうなの?」
「ああ。で、今からそれらを使って、改良を試みてみようと思っている所だ」
ラディウスはルーナに対して頷きつつそう言うと、そこで一度言葉を切り、ルーナとメルメメルアを交互に見てから、続きの言葉を紡いだ。
「すまないが、そのまま作成を進めてくれると助かる」
「お任せくださいなのです!」
「ええ、バッチリやっておくわ」
ふたりからのその返事にラディウスは、「よろしく頼む」と返すと、以前作ったガジェットをストレージから取り出す。
そして――
――この改良が上手くいけば、グロース・インヒビションもどうにか出来る算段が付くな。……さすがに大封印までは無理だが……
と、そんな事を考えながら改良を始めるのだった。
この改良が終わったら、第8節も終わりの想定です。
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新は。先日記載した通りとなりまして……10月15日(日)を予定しています!




