第8話 隠れ拠点。魂と魄とキャンセル。
「――とまあ、そういうわけだ」
「な、なるほどなのです。あの人がここに残ろうとしたのは、情報を外に伝える為だったですね」
ラディウスの説明を聞いたメルメメルアがそんな風に言う。
「それをセシリアさんから暗号という形で聞いて、こうしてやってきたわけですか、です」
「ああ、その通りだ」
カチュアに対してそう返事をした所で、
「というか、セシリアが私たちにこっちに向かわせたのって、このグローリアってスパイが『魔法をキャンセルするガジェット』を持っている事が分かっていたから……だったんじゃないかしらね?」
と、ルーナがこめかみを指で軽く叩いて思考を巡らせながら言う。
「あー……なるほど、たしかに言われてみるとそうかもしれないな。俺とルーナならどうにか出来るだろうと考えたか」
「ええ。もっとも、セシリアなら物理的に制圧出来そうな気がするけれど、ね」
「そうだな。まあ……もうひとりの方も同じガジェットを持っているとか、そっちにはセシリアとザイオンで向かわないと行けない理由があるとかなのかもしれんが」
「うーん、たしかにそうね。そういった可能性も十分ありえる話ではあるわね」
ルーナはラディウスにそう返した後、メルメメルアとカチュアを交互に見て、
「――それはそうと、ディーンさんへの通信は出来たのかしら?」
と、問いかけた。
「あ、はいです。ディーンさんによると、ただの変異だけではなく、魔法によって魂魄の魂と魄を分離するような状態になっているらしいので、それもどうにかする必要があるとの事ですです」
「魂と魄……。魂は良いとして魄って?」
カチュアの説明で良く分からなかったルーナが首を傾げながら問う。
「え、えーっと、それに関しては私もさっぱりわかりませんでしたです……。そう言っていたのは間違いありませんですが……」
「魂と魄か。そうだな……魂を陽とするなら、陰――肉体を司る陰の霊的な部分、あるいは気……みたいなもんだろうか。まあ……なんだ? 魔法――魔工学の分野では『アストラルの一部』って考えておけば、とりあえず問題はないぞ」
カチュアの返答に続く形で、そんな風に説明するラディウス。
「なるほど。つまり、無窮の混沌に沈んでいるカチュアたちに近い状況ってわけね」
「そうだな。そういう感じだ」
ラディウスはルーナに対してそう頷いてみせた所で、ふと思う。
「……って、待てよ? という事は、カチュアたちを引っ張り上げる方法と似たような方法を使えば、そこは対処出来そうだな」
「あー……そう言われるとたしかにそうかも……? これ、上手くやれば一気に色々と解決出来る気がするわね」
「ああ。スパイの問題は解決したし、戻って早速作業を再開するとしよう」
「戻ったら、私も手伝うのです!」
ラディウスに対してメルメメルアがそう告げる。
「それなら、メルとルーナにはこの先の工程は少し任せるか。俺はちょっとばかし、この『魔法をキャンセルする』というレアなガジェットを分解して色々と調べてみたくてな」
と言って、グローリアから回収したガジェットを見せるラディウス。
「たしかに、随分と珍しいガジェットですです」
「ええ。一体どこで手に入れたのかも気になるわね」
カチュアとルーナがガジェットを見ながらそんな風に言うと、
「古の時代に、このような物を生み出す文明となると……ガーディマ辺りではあるですが……こちらの世界にガーディマの遺跡が残っているという話は聞いた事がないのです」
と、考える仕草をしながら告げてくるメルメメルア。
「誰か『向こうの世界の人間』から受け取ったか、グローリア自体が行き来出来るか……? いえ、後者はないわね。そんな事が出来るなら、もっと簡単に外部に情報を伝える事が出来ているはずだし」
「ああそうだな。なんにせよ、そこら辺はここで考えても仕方がない。ザイオンやセシリアに聞き出して貰うとしよう」
「それもそうね。それじゃあそろそろ戻りましょうか。……あっちも『もうひとりのスパイ』を確保している頃じゃないかと思うけど、向こうの世界で聞けないのが厄介ね」
そう言って肩をすくめるルーナに対し、カチュアが問う。
「向こうにもスパイがいて監視しているんでした? です?」
「ええ、そうみたいなのよね」
頷きながらそう返事をしてため息をつくルーナ。
ラディウスはそのルーナの言葉を聞きながらグローリアを背負うと、
「ま、あのふたりならきっと動いているだろうし、戻ればすぐわかる事だ」
と告げて、来た道を引き返すのだった――
魔法の発動をキャンセルするガジェットの出処とは……?
とまあそんな所でまた次回! なのですが……申し訳ありません、次の更新も諸事情により1日多く間が空きまして……10月8日(日)を予定しています。




