第2話 遺跡を進む。檻の広間と甲冑。
階段を下りた所も通路になっていたが、先を見ると奥の方が開けているのが分かった。
この先は部屋かなにかになっているのだろうか? と思いながら、ラディウスは奥へと進む。
と、すぐにガチャガチャという金属音が奥から聞こえてきた。
――これは……鎧の音? 見張りの兵士がいるのか?
ラディウスは見張りの兵士の可能性を考え、ストレージから腕輪を取り出す。
「……ハイドヴェール・改」
腕に嵌めて小声でそう言った瞬間、ラディウスの姿が消える。
……正確に言うのであれば、周囲に同化したというべきか。
その場に間違いなく存在しているが、光を屈折させる魔力の衣によって覆われており、視覚でその姿を捉えるのは非常に難しい。
普通のハイドヴェールは、移動時に若干の揺らぎが生じるため、よく見ていれば動きがある程度わかるものだ。
しかし、ラディウスによって改造されたそれは、移動しても一切の揺らぎが生じないため、目を皿のようにして見ていても、まったくわからなかったりする。
ラディウスの足音の方は、すでにレビテーションによって消えているため、視覚や聴覚ではその姿を捉えるのは、もはや不可能に近い。
とはいえ、気配やガジェットの魔力といった物で察知される可能性はゼロではないため、ラディウスは慎重に通路を進んでいく。
「って……なんだよ……これは……」
ラディウスは開けた場所――広間になっていたその場所に足を踏み入れるなり、そう口にせずにはいられなかった。
なぜなら、広間には大小様々な檻が所狭しと設置されており、その中には数多の魔物や動物の姿があったからだ。
と、その直後、ガチャガチャという鎧の音が急速に大きくなっていく。
今しがた発した声により、気づかれた可能性が高いと考えたラディウスは、即座に通路まで戻り、そーっと様子を伺う。
すると、程なくして全身を黒光りする甲冑で鎧った巨躯の兵士が姿を見せた。
ラディウスが先程までいた所に立ち、周囲を伺う巨躯の兵士。
ラディウスは身を潜めたまま、監視を続ける。
しばらくすると警戒を解いたのか、巨躯の兵士が再び歩き始める。
しかし、その動きはどうにも人間のものとは思えない、そんな不自然さがあった。
その事に気づいたラディウスは、甲冑の中を覗いてみようと思い、「ヘイジーミスト・改。アンチビルレント・改」と続けて魔法を発動させる。
……だが、ヘイジーミストの魔法が効かない。
魔法の霧が発生している事にすら気づいていないのか、巨躯の兵士は立ち止まる事なく歩き続けている。
――入口にいた兵士には効いたのだが……もしかして、あの甲冑が無効化している……のか?
……いや、まてよ……。あの甲冑の中には誰もいなくて、甲冑だけが動いているって可能性もあるな……。その手の魔法も幾つかあるし。
ふと思い立って、マリスディテクターの反応を見てみるラディウス。
すると、『リビングアーマー』という名称が頭の中に流れ込んでくる。
――お、上手くいったぞ。
やはりというかなんというか、甲冑だけが動いているパターンだったか。
広間を調べるのに邪魔だし、排除してしまうとするか。
幸い、ここにはこいつ1体しかいないようだしな。
ラディウスはそう結論を出すと、即座にペンデュラムを構え、甲冑――リビングアーマーの方を見据えながら、
「エンハンスイレーサー・改」
と言い放つ。
次の瞬間、リビングアーマーが足を踏み出そうとした体勢のまま動きを止める。
そして、ブルブルと震えたかと思うと、ガシャアァンというけたたましい金属音が響き渡り、リビングアーマーがバラバラに砕け散った。
――エンハンスイレーサーだけで片付くとは想定外だな……
ガジェットの類で、魔法を常駐化させて動かしているかと思ったんだが……魔法付与だけだったのか……
なんつー効率の悪い方法を……。これじゃあ、定期的に魔法付与をしなおす必要があるじゃないか……
ラディウスはそんな事を考えながら、広間を見て回るべく歩き出した――
もうちょっと先まで進めようかと思ったのですが、ちょっと長くなってしまうので、ほとんど進展していないですが一旦区切りました。




