第7話 黒き闇、世界の深淵。肉体と魂。
「あ、あの、ちなみに、その無窮の混沌から引っ張り上げる事は出来るですか?」
メルメメルアがリリティナに対してそんな風に問いかける。
すると、「そうですね……」と呟いて少し考え込んだ後、
「幸いというべきか、私もカチュアさんもリンクが復活しており、『ここ』以外にも『肉体』と『魂』が存在出来る状態ですので、可能か不可能かで言えば、可能と言えるでしょう。もっとも、私もカチュアさんもギリギリの状況ではありますが……」
と、そう返事をしてくるリリティナ。
「えっと、ギリギリというのはどういう事?」
「リンクが再度切断されてしまった場合、今度こそ完全に肉体と魂が分離した状態で無窮の混沌に沈んでしまいます。そして、肉体と魂が分離しているがゆえに死の概念もなく、永遠にここに囚われ続ける事となってしまうでしょう」
首を傾げるセシリアに対して、リリティナがそんな風に答える。
そして、それを聞いたカチュアは、恐怖に満ちた顔で「ひぃっ!?」という短い悲鳴を発した。
「そ、それはシャレにならないわね。なるべく急いでどうにかした方が良いのは間違いなさそうだわ……。でも、肉体と魂が分離されている状態なのよね? 両方とも引き上げるとなると、結構大変な気がするけど、どうすればいいのかしら……」
ルーナがそんな風に口にしながら顎に手を当てる。
と、それに対してラディウスが腕を組み、
「いや、ここまでの話からすると、とりあえず魂をそこから引き上げる事さえ出来れば、永遠にそこに囚われるなんていう最悪の状況に陥る事だけは、回避出来るんじゃないかと思う」
という推測を口にした。
「そうですね。魂さえ無窮の混沌から脱する事が出来れば、もし肉体を引き上げる事が出来なくなってしまったとしても、仮初めの肉体――義体を作るという手でどうにか出来なくもないですし」
「……ま、あまりその手は使いたくないけどな」
リリティナの発言に、ラディウスはそう返しつつ肩をすくめてみせる。
「魂を引き上げる……ですか。封魂術……いえ、魂を封じ込めるガジェットを応用すれば、いけたりするですかね?」
「そうだなぁ……。原理的にはいけそうな気もするが、どうやって無窮の混沌とやらに沈んでいる魂を、ガジェットに封じるのかという問題があるな。無窮の混沌への接続――『扉』を開く事だけならば、既に発動済みの術式の力で割と簡単に出来るんだが、正確な位置を掴んで、なおかつそこに向かって魂を封じる力を飛ばさないといけないだろうからなぁ」
メルメメルアの言葉に、ラディウスはそんな風に返事をし、「うーん……」と唸る。
「なんつーか、広大な砂漠の中から砂粒ひとつ見つけ出すくらいに厄介そうな話だな、そいつは」
「そうね。たしかにそんな感じがするわ……」
ザイオンとルーナがため息混じりにそう口にした所で、
「――妖姫の剣があれば、あるいは……」
と、呟くように言うリリティナ。
それに対して、メルメメルアが「妖姫様の剣……です?」と問う。
「はい。私を拐かしたヴィンスレイドが妖姫から奪った剣です。赤い線で描かれた紋様の入った漆黒の剣なのですが、それには妖姫の『魔力』が秘められているそうです」
そのリリティナの発言を聞いたラディウスは『赤い線で描かれた紋様の入った漆黒の剣』という所に引っ掛かりを覚える。
「それと私がこうして妖姫の肉体を見つけるのに使った方法とを組み合わせれば、無窮の混沌のどこに、肉体や魂があるのかを見つける事が出来るかもしれません。……まあ、あくまでも『かも』という可能性の話であって、絶対出来るとは言えないのですが……」
「でも、少しでも可能性があるのなら試してみたい所だよね。まあ、その剣がどこにあるのかっていうのが最大の問題だけど……」
リリティナに対してセシリアがそんな風に言った所で、
「……その漆黒の剣、俺が持っている奴かもしれん……」
と、呟くように返すラディウス。そして……
――そう、ヴィンスレイドの屋敷でルティカが見つけた剣を、俺が『ちょっと気になるから俺が調べてみる』って言って受け取ったんだよな……
調べる機会がなくて、今の今までストレージに放り込んだままになっていたが……
なんて事を思うのだった。
長らく放置されていた『剣』の出番がようやく来ました……
今更と言えば今更な話ではあるのですが、あの剣、出すのが早すぎた気がします……
(ヴィンスレイドの所以外では出しづらい代物ではあったのですが……)
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も平時通りの間隔となりまして、8月30日(水)の更新を予定しています!
ただ……その次は、月末月初の諸々の都合で1日多く間が空く事になりそうです……




