第6話 黒き闇、世界の深淵。無窮の混沌。
「……誰?」
ルーナがそんなもっともな疑問を口にする。
しかし、その直後、
「あれは……。ま、まさか……妖姫様です!?」
と、そんな事を声を大にして言うメルメメルア。
「妖姫って、ラディの話だと皇帝宮殿の監獄に囚われているという話だったような……?」
セシリアがそう呟くように言って首を傾げると、
「はい。妖姫の魂は皇女リリティナの肉体に封じられ、更にその監獄に囚われた状態です」
なんて事を言ってくる亜人種の女性。
「だとしたら、あなたは? 皇女リリティナ……ではないわよね? リリティナの魂が封じられている代物は別にあったし」
「いえ、私はリリティナです。ただし『向こうの世界の』と付きますが」
ルーナの問いかけに対し、そんな風に返す亜人種の女性――否、皇女リリティナ。
「んん? 向こうの世界でも肉体が入れ替わっているって事?」
「ある意味ではそうですね」
「ある意味では? どういう事?」
『向こうの世界――正確に言うと向こうの世界とは言い難いのですが――での私は、『無窮の混沌』……。そう呼ばれる場所に沈んでいる状態なんです。そちらにいるであろうカチュアという亜人種の少女と同様に』
首を傾げるセシリアの言葉にリリティナはそう答える。
『いるであろう』と言ったのは、向こうからはラディウスたちの乗る装甲車の中が見えないからだろう。
「私と同じ……ですかです……」
カチュアがそう呟くように言うと、リリティナは首を縦に振ってから、
「無窮の混沌に沈んだ私やその娘は、魂と肉体とが分離している状態です。ゆえに、並行世界を移動する手段が寸断されてしまい、どちらかの世界に引っ張られた状態で固定されてしまいます。私の場合は、こちら側の世界の『器』の中に引っ張られた状態でした」
と、そう説明する。
「なるほど……。だからリンクが切断されたわけか……」
「でも、『でした』ってどういう事? 今は違うというの?」
ラディウスに続いて、そんな疑問を口にするルーナ。
それに対してリリティナは、
「私の『器』を向こうの世界に持ち込んだ事で、こちら側とあちら側との接続が再び可能になりました。そこで私は、向こうの世界に存在している妖姫の肉体をどうにか引き寄せて、こうして『時空の断片』を通じてあなたがたに接触する事が可能になったのです」
と、そう告げる。
「どうにか引き寄せるとか、時空の断片を通じてとか、よくもまあそんな事を平然とやってのけたもんだな」
「たしかにそうだね。というか……その知識、どうやって得たの?」
ザイオンとセシリアがそんな風に言うと、
「ラディウス様が妖姫に接触した事で、妖姫が並行世界という概念を認識しました。そして、アルフォンス様との接触で更に情報を得た妖姫が、向こうの世界の私の魂に接触してきまして、そういった知識を得たのです。……妖姫がそのような知識をどうして持ち合わせているのかまでは分かりませんが……」
と、そう告げてくるリリティナ。
「まあ、妖姫様はかつての国の中枢に近い所におられましたですし、そのくらいの知識があってもおかしくはありませんですが……無窮の混沌は、古の時代には存在していませんでしたです。どうやって存在していなかったものの知識まで得たのかというのは、ちょっとだけ気にはなりますですね」
「アルフォンス猊下との接触の際に『何かを掴んだ』のかもね」
カチュアに続くようにしてセシリアがそんな風に言う。
「妖姫が最初から持っている古の時代の知識を考えると、それは十分考えられる話ではあるな。……無窮の混沌という存在は、古の時代の『災厄』となんらかの関係がありそうな気も少しするし」
ラディウスはセシリアの発言に対して、そう呟くように口にしつつ思う。
――このホログラムのような代物が『時空の断片』という名称であるのなら、無窮の混沌は『歴史改変』とも大いに関係がありそうだな……
と。
遂にというかようやくというか……リリティナの登場となりました。
まあなんというか、ラディウスと接触した後に妖姫がチョロっと何やら考えていたシーンの伏線を、やっと一部回収出来た感じです……
とまあそんな所でまた次回! 次の更新も平時通りの間隔となりまして……8月27日(日)を予定しています!
 




