第4話 黒き闇、世界の深淵。靄の底。
「そ、そうなのですか!? だ、だとしたら、あの底にカチュアが……?」
カチュアの言葉を聞いたメルメメルアが、驚きの声と共にカチュアを見る。
「そうねぇ……。オルディマが使った秘術とやらがどういう代物なのか詳細が分からない以上、こちらの世界へ飛ばす類のものである可能性も、否定は出来ないわね」
「ああそうだな。ただ、同じ世界に同一人物が存在出来るとは思えないから、個人的にはあそこにはカチュアはいないんじゃないかと思う。ま、とはいえ……だ。何らかの繋がりがあると考えて良いだろう」
ラディウスがルーナの発言に頷きつつ、そんな風に返す。
それに対してセシリアが、
「それで、どうするの? このまま靄に突入してみる感じ?」
と、ラディウスの方を見て問いかける。
「ま、それが一番手っ取り早いしな」
ラディウスはそう返事をしてパネルを操作。
解析機能を使う為に、その場に浮遊状態で停止させていた偵察ガジェットを、再び降下させ始める。
そして、ほどなくして黒い靄へと突入する偵察ガジェット。
と、次の瞬間、映し出されている映像がブレた。
それと同時に偵察ガジェットの周囲の黒い靄が凄い勢いで上昇していく映像が送られてくる。
「急に靄が噴き出し始めた?」
「いえ、違うわ。これは『勢いよく下に引っ張られている』んだと思うわ」
首を傾げたセシリアに対し、ルーナがそんな推測を口にする。
「ああ。これは何か得体のしれない力で引っ張られている状態だな。もう一度降下を停止させてみたんだが、それでも降下が止まらん。というか、上昇も無理だ」
ラディウスがルーナに同意しつつ、パネルで操作を続ける。
「このまま底まで突き進んでみるしかないってわけか」
「そうなるな……。もっとも、偵察ガジェットがどこまで耐えられるのか、そして映像の送信限界に到達する前に底に辿り着くのか、というふたつの問題があるんだけどな」
ザイオンの発言に対し、ラディウスはそう返しながらパネルから手を離すと、腕を組んで見せた。
「そこはもうなるようにしかならないのです。でも、きっと大丈夫だと私は思っているのですっ!」
メルメメルアが心の底から大丈夫だと信じていると言わんばかりの表情と声で、そんな風に言いながら送られてくる映像を見続ける。
それに対してセシリアが、少し呆れ気味に言葉を紡ぐ。
「なんでメルが自信満々なのか分からないけど、でもまあ、たしかに私もそう思うよ」
時折映像がブレるものの、それ以外は特に何もなく、黒い靄の深奥――『底』に向かって降下し続ける偵察ガジェット。
「ちなみに、今ってどのくらいの深さなんですか? です」
そんなカチュアの問いかけに、
「17カルフォーネ……いや、今18に到達したな」
と、パネルを見ながら答えるラディウス。
「じ、18ですっ!? いくらなんでも深すぎますです!」
そんな驚きの声を上げるカチュアに、ルーナが頬を人差し指で軽く叩きながら、
「そうね……。18カルフォーネ――つまり、18000フォーネ……。この大陸で一番高いレグナギア山がすっぽり入ってしまうわね」
なんて事を呟く。
「レグナギア山って、何フォーネあるんだっけ?」
「13326フォーネって言われてんな」
首を傾げたセシリアに、ザイオンがそう答える。
それに対して、セシリアとメルメメルアが、
「つまり、13カルフォーネちょっとってわけだね……」
「それよりも5カルフォーネ以上あるですか……。恐ろしく深い穴なのです」
と、そんな風に呟きながら映像を見る。
――どう考えても、自然に出来たものじゃないよなぁ……この穴。
一体、どうやったらこんな穴を作り出せるというんだ?
ラディウスがセシリアたちの発言を聞きながら、しばしそんな思考を巡らせていると、急に強く映像がブレた。
「うん?」
ラディウスがそれに気づいたその直後、降下――既に降下させていないので落下ともいうが――が停止した。
「止まった……わね。ここが底なのかしら?」
「そうみたいだな。もっとも、この周囲には黒い靄が広がるだけで何もなさそうだ。このまま底を移動して、何かないか探ってみるとしよう」
ラディウスがルーナの呟きにそう返事をしつつ、パネルを操作して偵察ガジェットを動かそうとしたその刹那、
『――こ……ち……ら……へ……』
という消え入りそうな声が唐突に響いてきた。
ラディウスは、それに驚きつつも考える。
――今のは……声……だよな?
なぜだかわからないが、右――東の方から聞こえてきたように感じたが……
と。
果たして声の正体とは……?
といった所でまた次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、8月21日(月)を予定しています!




