第1話 黒き闇、世界の深淵。覗く者たち。
「これはまた妙な代物だな……」
「ホログラムと言えばホログラムだが……」
ザイオンの呟きに対し、そう返しながら映し出されている『ソレ』を眺めるラディウス。
メルメメルアがホログラムではないかと推測したブロック状の物は、良く見るとどこかの風景が映っていた。
そういう意味ではたしかにホログラムだと言えなくもない。
もっとも、その数は『黒い穴』の全域に渡って大量に浮かんでいたりするが。
「これらの物は、一体どこを映し出しているのかしら……」
ルーナがそう言った直後、
「あっ! あそこの奴、レマノー湖じゃない?」
と、セシリアが指で一点を示しながら告げてくる。
その指の示す先を見ると、たしかにレマノー湖だった。
ただし――
「たしかにレマノー湖なのです。でも、このアングルなら、湖畔にあるはずのレゾナンスタワーも映っていて良いはずなのです」
そうメルメメルアが口にした通り、そこにはレゾナンスタワーは映っていなかった。
「というか……あの湖畔に見えるのって……」
「フィルカーナの畑で間違いありませんです!」
ルーナの呟きに続くようにしてカチュアがそう声を大にして告げる。
「まさか、向こう側の世界が映っている……のか?」
「いや……それも違うようだ」
ラディウスの発言に対し、ザイオンがそう返す。
それに対して、「何か断言出来るものでもあった?」とセシリアが問う。
「ああ。そっちのブロックに映っているのは、ゼグナムの王都……の廃墟だ」
ザイオンが少し顔をしかめながらそう告げる。
「ゼグナムの王都……。これがそうなのですか……。実際に見たのは初めてなのです」
「ここまで破壊されているだなんて、なかなかに酷いね……」
メルメメルアに続く形でセシリアがそう口にする。
そしてそのまま顎に手を当て、
「でも、そうなると……両方の世界が映されているって事になるんじゃ……」
と言った。
「まあ、そういう事にな――」
ラディウスはセシリアに対して同意の言葉を紡ぐその途中で、ふと視界に入ったひとつの光景によって絶句した。
――あれは……。あの黒鉄によって造られた漆黒の壁は……。まさか、ガルディア砦の城壁……か?
ラディウスの視線の先にあるブロックに映し出されていたモノ。それは、時を遡る直前に居たガルディア砦の城壁にそっくりだった。
更に良く見ると、壁の下は森が広がっているのがわかる。
――森の中にそびえる漆黒の壁……。間違いない。あれはガルディア砦だ。時を遡ってくる前の世界……いや、時代の……。どうしてそれがここに映し出されている……?
一体どういう事だ……? 未来の光景が映し出されているだなんて……
いや、まて……そもそもあの未来に今のこの世界がなるとは思えないぞ……。俺はあの未来へと続くきっかけになったガジェットを作っていないからな。
だとすると……どういう事だ? まさか、『こうなる可能性の未来』までもが映し出されているとでも言うのか?
ラディウスがそんな事を考えていると、
「っ! メルお姉ちゃん! あの遺跡……私たちが古の時代に暮らしていた島の研究所にそっくりじゃないですか? です!」
「……た、たしかに言われてみると、そっくり……いえ、研究所そのものなのです……。で、でも、あの研究所は……あの浮遊島は、この大陸のどこにも存在していないはず……。まさか、これは大陸の外まで映し出しているですか……?」
という会話をするカチュアとメルメメルアの声がラディウスの耳に届く。
それに対してラディウスは思う。
――果たしてこの大陸の外に、メルとカチュアの言う浮遊島は存在しているのだろうか?
なにしろ、この謎のブロックにはこの世界だけではなく、向こうの世界……そして、可能性の未来までもが映し出されている。
それを踏まえると、浮遊島がこちらの世界や今の時代に存在しているとは限らないからな……
まあ、それすらも推測でしかないというか……これだけ幅広く映し出されていると、最早なにがなんだかさっぱりすぎて、正直理解不能だからなぁ……
と。
今回から地味に節が変わっています。
とまあそんな感じでまた次回!
お盆前で諸々あります関係であまり時間が取れない為、誠に申し訳ありませんが、次の更新は平時よりも1日多く間が空きまして……8月10日(木)を予定しています。
※追記
節の区分が設定出来ていなかったので設定しました。
また、最後のラディウスの思考部分が少し描写……というか説明が不足しているように感じたので、説明になるような感じの加筆をしました。




