第7話 動き出すその先。死の大地の黒。
「消耗が激しい……か。そいつはかなり危険だな」
そう言いながら装甲車を後退させ、車体全体を境界線の外へと出すザイオン。
「う、うーん……。危険なのは重々承知していますですが、『あの空間』に似ているのがちょっと気になりますです」
カチュアが映し出される光景を見ながらそんな風に言うと、
「たしかに、カチュアが閉じ込められている空間と似ているというのは、オルディマの秘術だか禁呪だかとの繋がりを感じるというか……何かの情報が得られそうな気はするわね……」
「そうだね。ここまで来た事だし、少しの時間でも中に入れるっていうなら、入ってみない?」
「異議はないのです。ラディウスさんの障壁を信じているのです」
なんて事をルーナ、セシリア、そしてメルメメルアの3人が続けて口にした。
「……だそうだが、どうするよ? 俺はどっちでも構わねぇぜ」
ザイオンがそう言いながらラディウスの方へと顔を向ける。
「……進んで行ってみて、消耗度が4割くらいになった時点ですぐに引き返せば大丈夫だろう。そこまで進んでみるとするか」
ラディウスがそう告げると、
「わかった。それじゃ突き進むとするぜ!」
ザイオンはそんな風に返し、勢いよく装甲車を前進させ始める。
そうして一直線に進んで行くも、周囲には何もない。
あるのは灰色の地面だけである。
そのまま20フォーネほど進んでいった所で、
「……どこまでいってもなにも出てこねぇな……」
「そうね。本当になにもないわね……。延々と同じ景色が続いててちょっと眠くなってきたわ……」
ザイオンとルーナがそう呟き、
「……たしかにちょっと飽きてきたかも。ってかこれ、反対側まで何もないんじゃ……」
「うーん……。その可能性は大いにあるな……」
と、セシリア、そしてラディウスが続く。
「ちなみに反対側まではどのくらいあるのですか? です」
カチュアがそんな疑問を口にすると、
「たしか……半径33フォーネだったはずなので……あと、46フォーネなのです」
と、そう答えるメルメメルア。
「なるほど……。あと、13フォーネでちょうど中心か……。ここまでの障壁の消耗度を考えると、そこまで行っても問題はなさそうというか……このままなら、反対側まで出られそうな感じではあるな。結構ギリギリそうだが」
ゲージを見ながらそんな風に言うラディウスに対し、ザイオンが、
「ならもういっそ、横断してみっか?」
なんていう提案を口にする。
「……まあ、それでもいい気がするな。中心付近まで行って考えるとしよう」
ラディウスが腕を組みながらそう口にした直後、
「……気のせいかもしれないのですが、遥か先が黒い気がしますですね?」
と、そんな事をカチュアが呟くように言う。
「……ん?」
ラディウスが改めて映し出されている正面の映像を観ると、たしかに黒いものが前方に見えた。
「……穴かなにか……か?」
「中心に大穴が空いている……とかなのかしらね?」
ラディウスの呟きに続く形で、ルーナがそんな推測を口にすると、セシリアが頷きながら、「あー、たしかにありそう」とそれに対して同意してみせた。
「望遠モードを使ってみるか」
ラディウスがそう言いながら増設されたパネルの上で指を踊らせる。
すると、映像の隅に円形の枠が出現し、遠くの映像が徐々に迫ってくるような形で映し出され始めた。
「うおっ、こんな機能まで搭載されてんのか」
ザイオンが驚きの声を上げると、
「これなら長距離を確認出来るのです。さすがなのです」
などと、相も変わらず手放しで称賛するメルメメルア。
「それはともかく……やっぱりなんだか穴っぽいね」
セシリアが徐々に映し出され始めるその『黒いもの』を見ながら、そう口にする。
「でも、穴というには何か妙な感じがするわね……。って、なにか穴の上に浮いているような……」
ルーナがそんな風に言った通り、たしかに穴のようなその『黒いもの』には、何かが大量に浮いているのがわかった。
「半透明のブロック……? いえ、ホログラムですかね?」
「こんな所にホログラム……?」
メルメメルアの推測にラディウスが首を傾げ、そして思考する。
――いきなり人工的な代物が出てくるとは思えないが……
まさか、何者かが『ソレ』を隠すためにこんな場所を生み出した……?
……いや、さすがにそれは思考が飛躍しすぎか……?
ま、なんにせよ近づいてみれば分かる話ではあるな。
しっかし……なんというか、まさに鬼が出るか蛇が出るか……って奴だなぁ。これは。
なにやら見えてきたようですが……?
……まあ、思ったよりも時間がかかってしまいましたが、ようやく『世界と物語の根幹に関わる代物のひとつ』が間近に見えてきた……といった感じです。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は平時通りの間隔となりまして、8月6日(日)を予定しています!




