第6話 動き出すものたち。生命力を奪うもの。
「本当になにもないわね……」
「灰色の地面が延々と続いているだけで、雑草ひとつ生えていないし、生物の骨ひとつ落ちてないね。道中、生物の骨とか結構転がっていたのに」
ルーナとセシリアがそんな風に言うと、ラディウスが顎に手を当てながら、
「ああ……。ここから急に生命の痕跡そのものが――この先に存在していたあらゆる物が、完全に消失しているというか……灰色の砂と化してしまっているな」
と、そんな風に言う。
「ここ……なんというか、妙に身体が締め付けられるかのような苦しさがあるというか……なんとなくではありますですが、向こう側の世界で私が閉じ込められている空間に、雰囲気が少し似ていますです……」
カチュアがそう口にしつつ、身体を震わせる。
「たしかにちょっと重さ……周囲から何かで押し付けられているかのような、そんな感覚があるわね。これって、この灰色の砂のせい……なのかしら?」
映し出されている映像を見ながら、そんな疑問を口にするルーナ。
それに対してラディウスは、同じく映像を見ながら推測を述べる。
「砂のせいというか……おそらく、この先の空気――いや、空気中にある何かが周囲の生命力を吸い取っているんだろう」
「その生命力を吸い取る何かって、目に見えない粒子とかガスとかそういうの? 諜報部で、そういうのが散布されている、あるいは散布される罠に注意しろって教わった事あるよ」
「ああそうだな。そう考えるのが妥当だろうな。もっとも……そうだとすると、この一帯にだけ留まっているというのが、少々良く分からんが……。ここがすり鉢状になっているとかだったら、まあ……まだ分からんでもないんだが、ここは完全に真っ平らで、周囲の原野との高低差は皆無だしな……」
セシリアの発言に、ラディウスが頷きながらそんな風に返す。
「はいです。粒子やガスならば、周囲に広がっていくのが自然な地形なのです」
「そうだな……。そこんとこに見えない壁でもあるんじゃねぇかって思えるくらい妙な境界線だよなぁ」
メルメメルアの言葉に続く形でザイオンがそう言いながら、正面に映し出されている死の大地と周囲の原野との境界線を指さす。
――たしかにそうなんだよな……
なんというか……まるでふたつの大地をそれぞれ切り取ってきて、ここでくっつけたかのような……そんな感じなんだよな、これ。
ラディウスがそんな事を考えていると、
「そうね……。まるで色の違うタイルを並べたみたいだわ」
と、ルーナがラディウスと似たような感想を口にする。
「ちなみに、このまま突き進んで大丈夫だったりするのか?」
ザイオンに問いかけに対し、ラディウスはしばし腕を組んで考えた後、
「……正直、未知数すぎて何とも言えないというか、装甲車の周囲に張り巡らしてある障壁次第だな……。……もう少しだけ……あの境界から先端だけ出してみて、どうなるかたしかめてみる……か?」
と、そんな風に告げた。
「先端だけ……か。慎重に動かす必要があるな」
「まあ……厳密に先端だけ出す必要性はないが、凄まじく危険な場所ではあるし、そのくらい慎重さをもって進んだ方が良いって感じだ。さすがに踏み込んだ瞬間即死するなんて事にはならないとは思うが、一応な」
「ああ、それはその通りだな。ま、やってみるとしよう」
ラディウスに同意しつつ、装甲車を動かすザイオン。
そして程なくして、装甲車の先端部分だけが『境界線』を超える。
と、次の瞬間、ピシピシッというヒビが入るような音が装甲車の先端から響いてきた。
「……障壁がこれまでとは比べ物にならない速度で消耗しているな。一応、どうにか耐えられるレベルではあるし、障壁が維持されている間は中にいる俺たちが生命力を奪われる事もなさそうな感じではあるが……あまり長い時間は無理そうだ」
ラディウスがモニタに表示されているゲージを見ながらそう告げ、そして考える。
――さて、このまま進むべきか、それとも引き返すべきか……
と。
説明が思ったよりも長くなった事で、結局足踏み状態に……
次はもうちょっとテンポよくしたい所です……
とまあそんな所でまた次回!
……なのですが、諸々の都合により、次の更新は再び平時よりも1日多く空きまして……8月3日(木)を予定しています……
多分、その次の更新は平時通りの間隔でいけると思います。……多分ですが……




