第3話 動き出す者たち。死の大地。
「そうだなぁ……。イザベラと協力関係を築くというのは、こちらの知らない情報を得られるようになるという点で非常に有用だ。だが、あいつを信用しすぎるのは危険すぎるのも、またたしかだ」
ラディウスが自身の思考を言葉にして紡ぐ。
それに対してルーナが顎に手を当て、
「そうね。その通りだと私も思うわ。たしかに情報面では有用だけど、どう考えても完全に信用していいような相手ではないわ」
と、ラディウスに同意する。
そしてメルメメルアがそれに頷きながら続く。
「そこなのですよ……。最後の最後で裏切られるのではないかという不安が、どうしても拭えない所が厄介であり、問題なのです」
「だねぇ。ただまあ、ラディやルーナの言う通り『手を組む』と色々と有用なのはたしかなんだよねぇ……。うーん……私としては手の内を見せすぎないように注意しつつ、協力関係を築くってのが一番良いんじゃないかな? なかなかその辺りのバランスを取るのが難しい気はするけど……」
と、そんな風に顎に手を当てながら告げるセシリア。
「そうだな……。イザベラの去り際の口ぶりからするに、再度接触するのはそんなに難しい事ではない……というか、放っておいても向こうからまた接触してきそうな雰囲気すらあったしな。そのタイミングで、まずは深く踏み込みすぎないようにして、そういう形に話を持っていくのが良いか」
「まあ……たしかにちょっと難しそうな所ではあるけれど、それで一番良いのもその通りだし、そうするしかないんじゃないかしら」
ラディウスの言葉にルーナがそう答えると、横のメルメメルアも無言のまま首を縦に振って同意した。
「でも、イザベラの目的がビブリオ・マギアスの目的とは全然違う物だったというのは驚きね。というか、世界の謎、世界の真実……ねぇ。まあたしかに気にはなる所ではあるわよね」
「そうだな。ガーディマ遺跡とか、ヴェルガノの古城とか、その辺りも詳しく調べてみたい所ではあるな」
ルーナに対して頷きながらそんな風に言うラディウス。
とそこで今まで話を聞く事に徹していたカチュアが、
「そう言えば、そのヴェルガノの古城の近くで育ったというエレンフィーネさん……でしたですか? その方の姿が見えませんですが……」
と、そんな疑問の声を口にした。
「あ、エレンならテオドールさん……というか、アルフォンス猊下やクレリテたちに帝国軍の情報を伝えている所だよ。ほら、猊下たちって今、帝都にいるし」
「なるほどですです」
セリシアの返答に頷いて納得するカチュア。
それを聞いたラディウスが、
「――帝都っていや、帝都の位置っておおよそグランベイルの街とその周辺あたりに存在しているが、なんでここなんだろうな……?」
と、そんな事をふと呟く。
「そう言われてみると、向こうの世界の王都からは、かなり離れているわよね……」
「というか、こっちの世界の王都の位置って何が?」
ルーナとセシリアがそんな風にラディウスに続いて口にした所で、
「こっちの世界ではそこには何もないのです」
と、そう答えるメルメメルア。
「何もない……というのは、どういう意味なのですか? です」
「一言で言うなら灰色の荒野なのです」
「灰色の荒野……ですか? です」
メルメメルアの返答に更に小首を傾げて問うカチュアに、メルメメルアは詳細を告げる。
「――建物は当然として、草木の一本すら生えておらず、仮にそこに何かを植えてもすぐに枯れてしまい育つ事のない大地……いえ、植物のみならず、あらゆる生命を吸い尽くして殺す死の大地……。あの辺りは、そんな場所なのです」
「王都のある場所はそんな状態になっているのか……。それはさすがに驚きだな……」
ラディウスはそう呟きながら思う。
――死の大地……か。昔、地球でそういうのが出てくる物語を何度か見た事があるが、この世界にもそんなものがあるとはな……
と。
なにやら物騒な場所が出てきたようですが……?
とまあ、そんな所でまた次回! なのですが……次の更新も諸々の都合で、平時よりも1日多く間が空きまして、7月23日(日)を予定しています……




