第7話 滅界獣と遺跡。ウィンザーム。
「……ん? ここにも紋章があるな……」
遺跡から聖木の館へと戻る途中で、ラディウスは天井に近い所に設けられている窪みに掘られた紋章を発見し、そんな風に呟いた。
「あ、ホントだ。気づかなかったよ」
「あの位置では、聖木の館の方から来ると見えないゆえ、気づかないのも無理はあるまい」
ディーンがセシリアに対してそう返した直後、
「これは……ウィンザームの紋章なのです。何故こんな所に?」
と言って小首を傾げるメルメメルア。
「ウィンザームっていうと……古の時代に存在していた国のひとつ……だっけ?」
「その通りなのです。エル・ガディアやガーディマに並ぶ大国だったのです」
メルメメルアが、セシリアに対して頷きながらそう返すと、
「ああ、これはウィンザームという国の紋章だったのか。以前、ここに入り込んだ際に見かけたが、単に紋章っぽい感じの特に意味のない彫刻だと思っていたよ」
と、そんな風に言うエレンフィーネ。
「――この紋章は円と線だけで構成されているという、現代の一般的な国の紋章と比べると、かなりシンプルな代物ではありますからね」
「うむ。紋章に見えなかったというのも、分からんではないな」
テオドールの言葉を引き継ぐような形でディーンがそう言葉を紡ぐと、
「それにしても……聖木の館自体が大昔の遺跡の上に造られているという事は、事前に聞いて知っていたですが……ウィンザームの物だったというのは、思ってもいなかったのです」
と、メルメメルア。
「うむ。『思ってもいなかった』というのは同意だ。何しろこの遺跡が『何の遺跡』なのかという情報までは不明だったのでな。この紋章をここで見たのも、今日が始めてな程だ。だが、この聖木の館の地下部分全てがウィンザームの遺跡であるかというと、そうではない気もしている」
そんな風にディーンが言うと、メルメメルアは首を傾げてみせた。
「どういう事なのです?」
「この遺跡――というか、この聖木の館の地下全体で妙に一直線の通路が多いのは既に認識しているであろう?」
「はいです。不自然なまでに一直線の通路があちこちにあったのです」
「実はあの通路、ところどころ『明らかに時代の異なる石材』によって補強されている。それどころか、通路ひとつ全てが『その石材』を用いられて作られている場所もあるのだ」
メルメメルアに対してディーンがそう言った所で、
「つまり……ウィンザームの遺跡の大半は埋まってしまっていて、その一部――まだ埋まっていない場所を利用しているにすぎない……って事?」
ディーンの説明に対し、メルメメルアに代わる形でそう声を投げかけるセシリア。
「うむ。新たに作られた通路は、その埋まっていない場所同士を繋ぐ為なのだろう」
「なるほど……。それでこんなやたらと深くて通路ばかりな妙な構造になった……と」
ディーンとセシリアがそう口にした所で、エレンフィーネが顎に手を当てながら疑問を口にする。
「もしや、それをしたのは奥の遺跡で研究を行っていた連中……か?」
「ああ。現時点では、そいつらである可能性が一番高いと俺も思う」
ラディウスはそんな風にエレンフィーネに返事をしつつ思う。
――だが、その連中は一体何者なんだ?
わざわざそんな事までして、何をしようとしていたんだ……?
と。
最序盤でアルベリヒやメルメメルアと話をした時に、チラッと登場した『ウィンザーム』の名をようやく出せました……
というか、あまりにも間が空きすぎていますね……
とまあ、そんな所でまた次回! 次の更新は平時通りの間隔となりまして……7月12日(水)を予定しています!




