第4話 魔工士は話を聞く。そして調べに行く。
震える声でとんでもない一言――『昨日から戻っていない』という事を告げられたラディウスは動揺しながらも、問い返す。
「ど、どういう事ですか!?」
「実は……伯爵様が行う遺跡の調査に協力する為、昨日の昼前に他の教会の者や護衛の冒険者の方たちと共に遺跡へ赴いたのですが……未だに帰ってきていないのです。セシリア様も、その他の方々も……誰ひとりとして」
「遺跡調査……? えっと……その遺跡というのは、ガーディマ遺跡の事ですか?」
ラディウスは、昨日カルティナと訪れたあの場所の事を思い出しながら問う。
「いえ、バルガ遺跡という名の、この街からレマノー村へ向かう途中の森にある遺跡です。普段は伯爵様が主導で調査を行っており、関係者以外の立ち入りが禁じられているのですが、なんでも教会の力を借りたい発見があったとかで……」
「なるほど……。それで協力要請を受けて、昨日その遺跡へ赴いたものの、今日になっても誰も帰ってこない……と」
「はい……。なので、遺跡の中で何かが起きたのではないかと思い、伯爵様に問い合わせてみたのですが、伯爵様の方からは返答どころか、反応すら未だになくて……」
シスターは沈んだ声でそう言って肩を落とす。
その顔は沈痛に満ちており、コップを持つ手も震えていた。
――なるほど、箒を持ったままボーッとしていたのはそういう事か……
心配でたまらないけど、現状では他に出来る事が何もないから、掃除でもして気を紛らわそうとしたものの、結局心配で手が動かなかった、と。
ラディウスはそんな事を考えつつ、冷静に思考を続ける。
――時を遡る前の歴史で、セシリアの死亡記事が出るのはもっと後だ。
だが、あくまでも『死亡記事が出るのは』でしかない。
だから、その前からセシリアの身に何かが起こっていた可能性は十分にありえる。
つまり……ただ待っているのは危険すぎるって事だな。すぐに動いた方が良さそうだ。
「……事情は把握しました。少しばかり伝手を使って、その遺跡について調べてみましょう」
無論、ラディウスにそんな伝手など存在しないが、そう言っておけばシスターが安心するだろうと思い、あえてそのように告げた。
「ほ、本当ですか!?」
「もちろんです。何かわかりましたら、すぐに連絡します」
「わ、わかりました。なにとぞよろしくお願いします。よろしくお願いします。よろしくお願いします――」
シスターはラディウスに何度も何度も頭を下げながら、懇願するのだった。
◆
バルガ遺跡の具体的な位置を聞いたラディウスは、昨日レマノー村へ行く途中にあった川までやってきた。
そして、伯爵の屋敷がある方角を見る。
――ここからこっちへ川沿いに進めばいいんだったな。
ラディウスは心の中で進む方向を確認すると、
「……さて、それじゃあ気合い入れて調べてみるとしようかね。あのシスターにめちゃくちゃ頭を下げられまくって懇願された以上、見つかりませんでしたってわけにはいかないしな」
と、誰にともなくそう言葉を発し、川に沿うようにして森の中を進んでいく。
……5分程歩き、川が右方向へ大きくカーブしている地点へと差し掛かった所で、対岸に石造りの取水口のような建造物があるのが目に入ってくる。
更によく見ると、兵士らしき人間がその建造物の左右、そして上にも立っていた。
ラディウスは即座に草むらに身を潜め、様子を伺う。
――どうやら、あれが遺跡の入口と考えて間違いなさそうだな。
見張りが3人もいる上に、鍵付きの片開き格子扉……か。なかなかに厳重だな。
まあ、俺には関係ないが。
心の中でそんな事を呟きながら、左の口角を上げてニヤリとするラディウス。
そしてその直後、「ストレージ・改」と小声で言い、立方体を出現させた。
自分以外の未来を――歴史を改変すべく、ちょっとばかし本気モードなラディウスです。




