第23話 聖木の館。災厄と獣
「もしかして、古の時代にあったっていう『災厄』とかいうのは、その滅界獣ってのが引き起こした……とか?」
セシリアがそんな風に問いかけると、イザベラは首を横に振り、
「違いますわよ。今言った通り、奴らはあくまでも『世界を滅ぼしかけた存在』から生まれたものどもでしかありませんわ。そして、それこそが『災厄』の元凶――あるいは発端である……と、そのように言えますわね」
と、そう答える。
「じゃあ、その『世界を滅ぼしかけた存在』っていうのは?」
「残念ですけれど、ソレに関してはわたくしも存じ上げませんわ。滅界獣という一般的な魔物の生態系、そして姿形から大きく外れたイレギュラーすぎる異形の化け物を生み出せる存在であるという事は、我々が発見した古代の記録から判明しておりますけれど、ソレがなんであるのかは記録からは読み取れず、不明なままですわ」
更に問うセシリアにそんな風に返し、肩をすくめてみせるイザベラ。
「ふーむ。黝い何かを噴き出したかと思いきや、そのまま活動を停止した……という辺りは、ゴーレムやドールといった人造の――魔法的な生命体の類に似ておるが、あれほど生物のような動きや見た目を有するものは見た事がない」
そう言って考え込むディーンに、
「案外、そういった存在を自動的に生み出し続けるプラント……のようなものだったりするのかもしれないですね」
と、そんな推測を口にするラディウス。
「ふむなるほど……。ガジェット――というか、常駐魔法の類によってオートメーション化された生物の実験研究施設が暴走状態になった……という可能性は、たしかにありえなくもない話ではあるな」
ディーンはそう言いながら、チラリとメルメメルアを見る。
――獣人は、古の時代の人間によって生み出されたという……
であれば、その獣人を生み出す実験研究施設の類に、何らかの異常事態が発生した……というのは、大いに考えられる話だ。
だが……自分たちの生み出したものに対し、何か問題が発生した時の為のセーフティとなる仕組みを用意していない、などという事がありえるのだろうか?
普通なら、決められた命令――呪文や動作などによって発動する自壊の術式などを組み込んでおくものだが……
そんな思考を巡らせるディーン。
ラディウスも同じ事を考えていたらしく、
「もっとも……もしそうだとしたら、その施設なりなんなりに、強制的に自己崩壊を引き起こす為のセーフティとなる術式を何故用意しておかなかったのか、という疑問が生じますけどね。無論、用意はされていたものの、何らかの理由で発動させられなかった……という可能性もありますが」
と、そうディーンの方を見て告げた。
「……なんだか、わたくしよりも先に貴方がたの方が、『真実』に辿り着きそうな気がしますわねぇ? うーん……。……どうかしら? わたくしと協力関係を築きません事?」
ため息混じりに何かを考え込みながら、そんな提案を唐突にしてくるイザベラ。
「……それはまた面白い冗談でございますね。貴方がたは『皇帝直属の諜報部』でございますよね? 帝国の支配に――皇帝の統治に抵抗する我々と協力関係が築けるはずがございません」
テオドールがそう返し、やれやれと言わんばかりに首を横に振ってみせた。
「冗談ではありませんわよ? そもそも、わたしくは『わたくしと貴方がたで』協力関係を築きたい……と、そう言ったのであって、『わたくしの所属する組織と貴方がたの組織』とで協力関係を築きたいと言ったわけではありませんわ」
「つまり……組織とは無関係に、個人的に繋がりを持ちたい……という事なのです?」
イザベラの発言に対し、今度はメルメメルアがそんな風に返す。
「そういう事ですわ。……ここまで話していて感じた……いえ、確信したのですけれど、貴方を含んだ数名は、『ゼグナム解放戦線』の者ではありませんわよね? 素性まではわかりかねますけれど、何らかの理由があって協力しているだけ……ですわよね?」
メルメメルアに対して頷きつつ、そんな風に問い返すイザベラ。
そしてそのまま、テオドール以外の人間に対し、順番に視線を向けてみせる。
――さすがというかなんというか、そこにあっさりと気づいてきたか。
向こうの世界の事を考えると、ゼグナム解放戦線の人間という事にしておきたかったのだが……下手をすると『そっち』まで見破られそうだな。
こうなると、こちらから返せる『手』はふたつ……って所か。
仕掛ける『手』でいくべきか、回避する『手』でいくべきか……。はてさてどうしたものか……
ラディウスはそう心の中で呟き、更に思考を巡らせ始めるのだった――
さて、どうするのでしょう?
といった所でまた次回! そして、その次の更新なのですが……所々諸々の都合により、申し訳ございませんが、平時よりも1日多く間が空きまして、6月6日(火)を予定しています。




