第22話。聖木の館。暗殺と滅界獣と。
「そんなに警戒せずとも、特にどうこうするという話ではありませんわ。あそこまで入り込める者がいるという事に驚いたのと、どういう人間が入り込んだのかという事に『あくまでも個人的に興味を抱いた』だけの話ですわ。なにしろ、あそこは宮殿の端に位置してはおりますけれど、そこへ行く為には人間による警備と魔法によるセキュリティ……その双方が厳重な宮殿の中央部を経由する必要がありますわ。ゆえに、そう簡単に入り込めるような場所ではありませんもの」
個人的な興味だという部分を強調しつつそんな事を言ってくるイザベラに対し、ラディウスは思う。
――あそこ、そんな場所にあったのか。入る時はワープだったし、出る時は地下水路となっている遺跡を使ったから良く分からなかったな……
と。
「――我らの情報網と技術をもってすれば、突破するのはそう難しい事ではございません。それは『この聖木の館があっさりと陥落した』事実からもおわかりになるのではございませんか?」
ラディウスがどう返事をするべきかと考えていると、テオドールが敢えて仰々しさと牽制、その双方の雰囲気が漂う仕草を見せながらそう告げる。
するとそれに対してイザベラは、
「なるほど……。たしかにその通りですわね。――さすがは『隠密宰相』……といった所ですわ」
なんて事を言った。
「おや、私が何者であるのか、既にお気づきでしたか」
「わたくし、先程名乗りました通り、宮廷魔工士ではありますけれど、諜報部のエージェントでもありますもの。そのくらいは把握していて当然というものですわ」
テオドールに対して肩をすくめながらそう返すイザベラ。
そのイザベラに対して、セシリアが疑問を投げかける。
「そんな事言ってたわねぇ。――その宮廷魔工士兼皇帝直属の諜報部のエージェント……なんていう長ったらしい肩書きを持つあなたが、どうしてこんな所に? ……まあ、グリムフォードとかいう将軍が何か関係しているんだろうけど?」
「本当でしたら秘密ですけれど……どうせ貴方がたならばすぐに理由を突き止めてくるでしょうし、わたくしの事を助けていただいたお礼として教えてあげますわ」
イザベラはセシリアにそう告げると、地面に落ちたままになっていたグリムフォードの者と思しきマントへと歩み寄りながら続きの言葉を紡ぐ。
「――グリムフォードは、ここでの研究結果を帝国の裏で蠢く者ども――アルベリヒとも繋がりがあるらしい者ども――に流そうとしておりましたわ。なので、わたくしはそれを阻止する為にアレを暗殺しようと、ここへやってきた……というわけですわ。ですけれど……あの者はなかなかに用心深くて、暗殺を実行出来るような機会がまったく訪れませんでしたわ」
「ふむ。たしかにグリムフォードは常に護衛を周囲につけていた上に、他者との接触を最小限にしておったな」
ディーンが顎に手を当てながらそう口にすると、
「ええ、その通りですわ。そうして結局、手が出せぬまま半月以上が経過してしまったのですけれど……そこにちょうど良い具合に貴方がたが攻め込んできて、こちらの旗色が悪くなるやグリムフォードは逃走を図りましたわ。そこは貴方のほうが良く知っていると思いますけれど」
と、そんな風に返すイザベラ。
「まあ……そうであるな。というか……その感じだと、あの場面をどこかで見ておったわけか」
「ずっと仕掛ける機会がないかと監視しておりましたからね。『必然的に目に入ってしまっただけ』ですわ」
イザベラはディーンの言葉に対してそう返しつつ、肩をすくめてみせる。
「ふぅん、なるほどねぇ。それで、都合よくグリムフォードが単独で逃げ出した上に、逃げた先がこの遺跡だったから、強襲して暗殺した……と?」
「その通り……と言いたい所ですけれど、ちょっと違いますわね。暗殺しようとした所にあの滅界獣が姿を現しまして、揃って喰われてしまいましたわ。わたくしは牙で引き千切られるのをなんとか避けられましたけれど、あの男は見事に引き千切られましたけれどね。――このマントは、その時に外れたようですわね」
セシリアの問いかけに、そんな風に答えつつマントへと視線を落とすイザベラ。
「さっきから気になっているんだが、その『滅界獣』というのはなんだ? 聞いた事がないんだが」
「あら、ご存知ないんですの? 滅界獣というのは、文字通りといいますか……過去に一度、『世界を滅ぼしかけた存在』から生まれたものどもの総称ですわ」
ラディウスの疑問に対し、イザベラがさらっとそう説明してくる。
それを聞いたラディウスは、素早く思考を巡らせる。
――過去に一度、『世界を滅ぼしかけた存在』……?
まさか、そいつと『災厄』には何か関係がある……のか?
なにやら出てきましたが……?
といった所でまた次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、6月2日(金)の予定です!




