第21話 聖木の館。中からいずる者。
「死んだフリ……とかではないのか?」
「いや、マリス・ディテクターに反応しない時点で、それはないと断言して構わない。この状況で死んだフリをするなんてのは、明らかに『敵意』や『殺意』のある行為だしな」
エレンフィーネの疑問に対し、そう答えるラディウス。
それに対してエレンフィーネは納得の表情で、
「なるほど……言われてみるとたしかに」
と、言って首を縦に振って見せた。
「ふむ。でしたら、喰われている者を引っ張り出すといたしましょうか。……一応、警戒しつつ、ですが」
「うむ、そうであるな。喰われた状態で生きている上に、中から攻撃出来るなど、ちょっとばかし……いや、大分『普通ではない』と言える」
テオドールとディーンがそんな風に言うと、それに続くようにしてメルメメルアが告げる。
「一応、マリス・ディテクターに反応しないので、こちらに対する敵意は持っていないようなのです」
「それはつまり……少なくとも、聖木の館に駐屯している帝国軍の人間ではない……って考えていいのかな?」
「まあそう考えていいだろうが、だからと言って俺たちの味方とは限らんけどな。グリムフォードを抹殺しにきた人間かもしれんし」
「あー、なるほどたしかに。つまり、『敵の敵は味方』じゃなくて『味方ではない敵の敵』なパターンかもしれない、と」
「ま、そういう感じだ」
セシリアとラディウスはそんな会話をしつつも、深淵より来たりしモノへと歩み寄る。
そして、妙な形で倒れ込んでしまった為、上手く這い出せずに悪戦苦闘している『何者か』へと手を伸ばし――
「よし引っ張るぞ」
「オッケー」
と言って、それぞれ片手を引っ張った。
――予想通り、女だったが……何者だ?
ラディウスがそう心の中で呟いた通り、ふたりによって引っ張り出された『何者か』は、所々溶けたような跡がある、ポンチョとボディスーツを一体化し、そこに直線だけで形成された紋様が至る所に描かれている、そんな一風変わった装束を身に纏った、長い銀髪を持つ若い女性であった。
「――何者かは……いえ、『ゼグナム解放戦線』の方とお見受けしますが、敵である可能性があるにも関わらず、あの滅界獣からわたくしを救助していただいた事に感謝いたしますわ」
若い女性はそう口にしながら手を胸元に当て、頭を下げる。
「うん? 聞き覚えのある声であるな……」
若い女性の声に対し、ディーンがボソッとそう呟く。
――聞き覚えのある声……ですか。もしや、あの者は……
テオドールがそんな事を考えながら若い女性を注視する。
――うーん。随分と貴族っぽい口調だなぁ……
テオドールが注視するのとほぼ同時に、セシリアがそんな事を思いつつ、
「どういたしまして。あ、私はセシリアって言うんだけど、あなたは?」
と、そんな風に言葉を投げかけた。
「わたくしの名前はイザベラ……。イザベラ・アナトリア・レミィ・クローディウス。宮廷魔工士兼皇帝陛下直属の諜報部に所属するエージェントですわ」
などと言ってくる若い女――イザベラ。
――宮廷魔工士のイザベラ……!? 待て待て、だとしたらこいつが……!?
ラディウスは心の中で驚きつつも、それは顔に出さず、
「宮廷魔工士イザベラ……。まさか、あのグロース・インヒビションという複雑な拘束術式を生み出したという?」
と、そんな風に問いかけた後、
「あ、名前を名乗っていなかったな。俺はラディウス。一応これでも魔工士だ」
なんて事を付け加えるように言った。
「そんなものもありましたわね……。あれを生み出すのは少々苦労いたしましたわ。……けれど、あの拘束術式の存在を知っているという事は、貴方は『監獄』へ足を踏み入れ……いえ、忍び込んだ事がある……と、そういうわけですわよね? つい最近、何者かが忍び込んだ形跡がありましたけれど、あれはもしや……貴方ですの?」
ラディウスの方を見ながら、そんな問いの言葉を投げかけるイザベラ。
ラディウスはそれに対して、しばしの思案の後、
「ふむ……。もし『そうだ』と言ったら?」
と、腕を組みながら問い返すのだった。
イザベラの登場です!
……まあ、ここまで伏線張りまくりだったので、なんとなく想像していたかもしれませんが……
それはさておき、いきなりとんでもない人物が現れましたが、果たして……?
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、5月30日(火)の予定です!
※追記
サブタイトルに『聖木の館』が抜けていたので追加しました。




