第12話 聖木の館。イザベラとヴィンスレイド。
「イザベラ……?」
「例の幻将と同じ名前なのです!」
首を傾げるセシリアに続く形でそう口にするメルメメルア。
「……まあ、イザベラという名前自体はそこまで珍しいものでもないし、同名の別人の可能性は普通にあるが……」
顎に手を当てながらそんな風に言うラディウスに、
「うんまあそうだね。同じ名前のシスターが普通に身近にいるし。……幻将の方のイザベラについて、もう少し詳しくわかればいいんだけど……」
と、頷きながら返すセシリア。
「それに関しては調査を進めていますが、まだこれといった情報は得られていませんね。……ちなみにディーン殿、『ヴィンスレイド』という人物はご存知ですか?」
「ヴィンスレイド? いや、聞いた事のない名――あ、いや……待てよ……?」
テオドールの問いかけに対し、首を傾げながらそんな事を言い、なにやら考え込み始めるディーン。
そして、程なくしてポンッと手を打ち、
「……そうだ。今話したイザベラがその名を口にしていたのを、一度だけ聞いた事があるぞ。通信ガジェットで誰かと会話をしていたようであったが……」
なんて事を言った。
「イザベラの口からヴィンスレイドの名前が出てきた?」
「……『繋がり』がありそうな気がするのです」
セシリアとメルメメルアがそんな風に言い、それに対してラディウスが頷く。
「ああ。ヴィンスレイドという名前は、この国……いや、大陸全体で見てもなかなかに珍しい名前だ。イザベラから出てきたそのヴィンスレイドは、あの男で間違いないだろう。そしてそれはつまり……幻将のイザベラとグロース・インヒビションを生み出した宮廷魔工士のイザベラは、同一人物である可能性が非常に高いという事になるな」
「――話の腰を折るようですまないのだが……幻将というのは何なのだ? そのような存在は帝国軍にはいない。他に将などという呼称を使っているのは、帝国の支配に抵抗する一部の反乱軍と革命軍だけだ。そうなると、それらのリーダーのひとりといった所であろうという推測は出来たのだが……そうすると帝国に――皇帝に協力しているというのが理解出来ぬ」
ラディウスたちの会話を聞いていたエレンフィーネがこめかみに手を当てながら、そんなある意味もっともな疑問を口にする。
「え? あー……どう説明するのがいいだろうか……」
「――この大陸の裏で蠢く『ビブリオ・マギアス』という組織が所有する『魔軍』という軍勢を率いる者の名のひとつです」
ラディウスが返答に悩んでいると、即座にテオドールが向こうの世界についての説明はせずに、さらっとそれだけを告げた。
「……ビブリオ……マギアス? そのような組織が存在しているのか……」
「はい。我々はとある活動において、偶然彼の者たちと接触する事になった為、その存在を認識するに至りましたが、彼の者たちは、水面下で誰にも見つかる事なく静かに計画を進める事を基本としています。故にその存在を知っている者はほとんどいないでしょう。――なにしろ、帝国軍の諜報部でも掴んでいないくらいですから」
エレンフィーネの呟きに対して、頷きながらそう告げるテオドール。
無論、向こうの世界にのみ存在し、こちらの世界には存在しない組織なので、向こうの世界の存在を知らない帝国軍の諜報部に掴めるわけもないのだが、そこは敢えて告げないテオドール。
そして、
「――おや、どうやら先行の部隊が到着したようですね」
と、そんな事を口にして通路の先へと視線を向ける。
ラディウスが「うん? 先行の部隊?」と呟きながらテオドールの視線の先を見る。
するとそこには、こちらへと駆けてくる部隊の者たちの姿がたしかにあった。
『イザベラ』が同一の存在である事が判明した形になりますが、果たして……?
といった所でまた次回! ……なのですが、GW直前で色々と立て込んでいる都合で、平時よりも1日多く間が空きまして……5月1日(月)の更新を予定しています!




