第1話 聖木の深奥。隠されし道。
「あ、ラディたち。そっちは諸々片付いた感じ?」
階段を見張っていたセシリアが、ラディウスたちの接近に気づき、姿を現しながらそう問いかける。
「ああ、一応『確保』はした。ただ、ブロブのような状態へと変容してしまっている状態だから、どうにかして元に戻さないと……って所だ」
「私の方もセシリアさんが送ってきてくれた部隊が到着したので問題なし、なのです」
ラディウスとメルメメルアがそんな風に答える。
「なら、遂に本格的に地下を探索する時が来たね」
「そうだな。――そして……ある意味、一番ヤバそうな場所だ。十分警戒しつつ探索するとしよう」
セシリアに対してラディウスがそう告げると、セシリアのみならず他の面々も、揃って無言で頷いてみせた。
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「この十字路の左右に見える扉……あの扉の先が、エレンフィーネさんが話していた『実験室』です?」
「ああ、その通りだ」
メルメメルアの問いかけにそう短く返事をした所で、
「……しかし、冷静になって改めて考えてみると、こんな大規模な施設を作っておいて、実験室がふたつしかないというのは不自然だな……」
と、思考を巡らせながら口にするエレンフィーネ。
「そうだね。あと、ここまで来るのに通った通路、あれも、なんであんな長い一本道にする必要があったのか……ってのが謎だよね」
「たしかにそうだな。もしかして、通路そのものになにかある……のか?」
セシリアの疑問に頷きつつそう返事をし、マリス・ディテクターを起動するラディウス。
すると足元……その更に下から敵意――憎悪を感じ取った。
『アンウィル・キーパー』
『アンウィル・エグゼキューター』
そんな名前が、次々と頭に浮かんでくるラディウス。
「……下に『精神制御突撃兵』の亜種と思しき奴らがたむろっているな……。どこかからか、下に行けるという事か……?」
ラディウスはそんな風に呟きながら、周囲を見回す。
どこかに魔法の仕掛け――術式の類があるのではないかと考え、解析しつつ、である。
「……ん?」
「どうかした?」
首を傾げたラディウスにセシリアが問いかける。
「いや、なんか来た道の方から魔法の反応が……」
ラディウスはそう答えつつ来た道を引き返す。
そして、曲がり角まで戻った所で、
「……この辺りの壁になにかあるようだが……」
と、呟くように言った。
「少し調べてみるといたしましょう」
テオドールがそう告げて壁を詳しく調べ始める。
そして程なくして、
「……ここの所がカードリーダーになっていますね。壁と壁の繋ぎ目に合わせるようにして、巧妙に隠されていますが、よく見ると分かります」
と、そんな風に言った。
「あ、たしかに壁に対して疑ってかかってみたら、私の『眼』でも、カードキーを通す『用途』を持つ溝がある事が判明したのです。エレンフィーネさん、カードキーの類をどこかで見た事はないです?」
「うーむ……。……残念ながらここに忍び込んだ時には、それらしい物は見かけなかったな。カードキー自体はあちこちで使われているゆえ、ここに適合する物を見つけ出すのは、少し厳しそうだな……」
メルメメルアの問いかけに少し思考を巡らせてからそう答えるエレンフィーネ。
「いや、別に本物を手に入れる必要はないぞ。俺の手元にオールマイティな偽造カードキーがあるのを忘れたか?」
ラディウスはそう言いながら以前――こちらの世界ではほんの少し前に――使った偽造カードキーのガジェットを、ストレージから取り出して見せる。
「そう言えば、そんな物があるって話を聞いたっけね……」
「たしかになのです。あっさりと問題が解決しそうなのです」
セシリアとメルメメルアがそんな風に言った所で、
「というわけで、とりあえずこれを試しに通してみよう」
と告げて、カードリーダーに偽造カードキーを通すラディウス。
すると、ピコッという電子音のような音が響いたかと思うと、その直後、ガタン! という音が響き、正面の壁が次々に沈み始める。
「……随分と奥まである感じなのです……」
「そうだな……。この石壁、どこまで続いているんだ……?」
メルメメルアとラディウスがそう口にした所で、床の高さまで沈んだ壁がそこで止まらず、更に沈んでいくのが目に入った。
「うん?」
「まだ沈む……のか?」
首を傾げるセシリアとエレンフィーネ。
その視線の先で、壁だったものは手前は浅く、奥へ行く程深く沈み、段々に下方向へと下っていく通路――いや、階段へと変わっていく。
それを見ながらラディウスは、
「なるほど、こういう仕掛けだったか……」
と呟いた。
というわけで(?)ようやく地下探索です。
今回は向こう側の世界に戻る事なく、一気に探索します。
といった所でまた次回! そして、次の更新ですが……申し訳ありません、次も少々予定がある為、平時通りとはいかず……平時よりも1日多く間が空きまして……3月24日(金)の更新を予定しています(その次からは平時通りの間隔に戻ります!)




