第6話 越える者、破る者。地下へ向かう者たち。
「凍結魔法自体は、さほど珍しいものではないと思うがな。製氷のガジェットと同じようなものだし」
「そ、それはそうだが、『水』と『人』を凍らせるのでは、さすがに違いすぎるのではないか?」
「……これは、『人の姿』を保って入るが、見ての通りドロドロとした――ブロブのような存在だ。そして、こういった存在は水分が人よりも多い。だから、急速冷却する事で、こうして見た目が人であっても、凍結させられるってわけだ」
「なるほど……。そう言われてみるとその通りかもしれぬな。だが……ラディ殿は、この娘がブロブのような存在と化していると、どうしてわかったのだ?」
ラディウスの説明に納得しつつ、新たな疑問を口にするエレンフィーネ。
「あー、いや、単にどういう状況にでも対応出来るようにと、他にも色々と拘束用の魔法は用意してあったんだ。で、こいつの動きを見た瞬間、こいつはブロブと同等の存在であり、冷気魔法による凍結がもっとも効果的だと判断した。……とまあ、それだけの話だ」
「ふむ、そうであったか。さすがはラディ殿、用意周到といった感じだな」
ラディウスの言葉を信じたエレンフィーネが、ラディウスに対して歓心しつつそう返す。
――なんだか騙しているようで気が引けるが……まあ仕方ないか。
と、そんな事を思いながら、
「とりあえず、これで肉体は確保した。……確保したが、この状態ではこの肉体の本来の持ち主――ディーゲルの娘と魂を入れ替えても駄目だな……」
なんて事を呟くように言うラディウス。
「そうですね……。まさか、ディーゲル殿のご息女すらも実験体にするとは想定外でした……」
そんな風に言うテオドールに対し、
「……このような状態に変容してしまった肉体を、元の状態に戻せるものなのかはなんとも言い難い所ですが……とりあえず、この聖木の館の中に保管されているであろう実験の記録を、探してみるしかないですね」
と返すラディウス。
「……実験の記録……か。もし、保管されているとしたら……地下だろう。地上の施設でそのようなものが――実験の記録が保管されている場所があるなどとは、聞いた事がないのでな」
考えながらそう口にするエレンフィーネに対し、ラディウスが頷いてみせる。
「ま、普通に考えたら厳重に隠蔽しつつ保管しておくだろうし、まさにその通り――地下だろうな」
「地下を探索するのであれば、その氷漬けにした身体はどういたしましょう?」
「常駐魔法で凍結状態を維持しておきますが……ここに放置するわけにも行きませんし、どこか安全地帯に移しておきたい所ですね……」
「であれば、外の装甲車に運び込むといたしましょう」
ラディウスの言葉を聞いたテオドールがそう言って後方に目配せをする。
すると、ゼグナム解放戦線のメンバーが4人程前に出て、凍結されているディーゲルの娘を持ち上げる。
「残りの者も、運び手の護衛をしつつ装甲車へ移動し、装甲車の警護にあたってください」
テオドールがそんな風に告げると、ゼグナム解放戦線の面々全員がそれに頷くか敬礼を返して去っていく。
「――さて、それでは地下へ向かうといたしましょうか」
そう促してくるテオドールに、ラディウスは「そうですね」と返す。
しかしすぐに、
「……っと、その前にメルと合流しておかないと……」
と、そんな風に言葉を続ける。
「たしかにそうですね」
「うむ。一度戻るとしよう」
テオドールとエレンフィーネがそう返し、3人はメルメメルアのもとへと移動する。
◆
「あ、ラディウスさん。こっちは増援の部隊が到着して、今まさに囚われていた人たちを誘導中なのです」
ラディウスが戻ってきた事に気づいたメルメメルアがそんな風に告げる。
「ああ、そうみたいだな」
ラディウスはそう返しつつ、解放した人々を護衛しながら外へと誘導しているゼグナム解放戦線の面々の姿を眺める。
「この分なら任せておいても大丈夫そうだな」
「どこかへ向か……あ、地下へ行くですね?」
ラディウスの言葉に、メルメメルアがそんな風に返す。
「ま、そういう事だ」
「ではでは、早速行くのです!」
行く気満々の返事をしたメルメメルアに続き、
「うむ、それでは地下へと続く階段へ向かうとしよう」
と言って、ラディウスたちを誘導し始めるエレンフィーネ。
その後ろに続きながら、ラディウスは思う。
さて、地下の深奥には何があるのやら……だな。
と。
前の節に比べて大分短めになりましたが、これでこの節は終わりです!
といった所でまた次回! ……なのですが、すいません所々諸々の都合により、次の更新は平時よりも1日多く間が空きまして……3月20日(月)を予定しています……
 




