第1話 魔工士は作った。そしてオーブンも見た。
「……煩悩的な何かを退散させるつもりで、全力で作っていたら空が白んでいた」
なんて事を宿の部屋でひとり呟くラディウス。
その周囲には作ったばかりの、有用な物からイマイチ用途のない物まで、それはそれは様々なガジェットが多数転がっていた。
――ちょっと作りすぎた気もしないではないが……まあ、収納魔法のガジェットも作ってあるし、そこに全部ぶち込んでおけばいっか。
それにしても……だ。徹夜をしたのは随分と久しぶりだな……。しかも、徹夜してもそこまで疲れていない! 素晴らしい!
ああ、若い身体というのはいいものだな……
ラディウスは、窓の外を眺めながらそんな事をしみじみと思いつつ、水を飲もうとテーブルの上に置かれているウォーターポットに手をかける。
……が、空っぽだった。
――いつの間にか全部飲み干していたみたいだ……
この時間じゃルーナはまだ起きてないだろうし、自分で水を汲んでくるか。
たしか、飲み水用の井戸は厨房の近くだったはずだ。
ウォーターポットを手に取り、井戸へと向かうラディウス。
「ん?」
井戸へと向かう途中、厨房の前を通ると、既に起きているディックの姿があった。
なにやらオーブンの前に立ち、唸っている。
「どうかしたんですか?」
気になったラディウスがそう問いかけると、ディックはその声に反応するように振り向いた。
「ん? もう起きたのか?」
「いえ、夜通しガジェットを作っていました」
そう答えるラディウスに、
「……そ、そうか……。お客に言う事じゃあねぇが、徹夜は程々にな」
と、心配するような表情でそう言って苦笑するディック。
「そうですね……。ところで、何を唸っていたんです?」
「ああ、実はこのガジェット――オーブンなんだが、うんともすんとも言わなくてな。昨日の夜から調子が悪かったんだが……ついに完全に壊れちまったようだ」
ラディウスの問いかけにそう返すディック。
「なるほど……。ちょっと見てもいいですか?」
「別に構わないぞ」
許可されたラディウスは、ウォーターポットを調理台の上に置き、ディックの横へと移動。
しゃがんでオーブンの下部にある保護プレートを外すと、中の様子を確認し始める。
――この手のリーベン・ガジェットは、マイクロ化が行われていないから、マジックストラクチャーを利用せずに修理や改造が出来るのが利点だよなぁ。っていうか、より機械に近い感じだ。
っと、これは……ソーサリーヒーター周りの導線の一部が損傷、および断裂しているせいだな。
まあ、これならすぐ直せるが……この配線、ロスが多くないか? これじゃあ想定通りの熱量が出ないぞ……?
んー、使われている導線が古かったり新しかったりしているし、一度誰かの手で修理されているっぽいな、これ。ったく……誰だか知らんけど、雑な修理をしやがって。
故障の状況を確認し、やれやれだと心の中で嘆息しつつ、保護プレートを一旦付け直すラディウス。
そして立ち上がってディックの方を向き、
「魔力を通す為の導線の一部が断裂しているだけですね。これならすぐに直せますよ」
と、簡単に修理出来る旨を伝えた。
「お、マジか! ……お客に頼むのもどうかと思うが……直して貰えねぇか?」
というディックの言葉にラディウスは頷き、快諾する。
「もちろんですよ。これが壊れているせいで、ディックさんの作るウマい飯が食えなくなるのは困りますからね」
「おう、そう言ってくれると嬉しいぜ! オーブンが直ったら、朝飯はたっぷりとサービスすっからな!」
喜ぶディックのその言葉に、ラディウスは初日の夜の事を思い出したのか、
「え、えっと……それは嬉しいですけど、量の方はほどほどで……。ま、まあとりあえず、修理に必要な道具を取ってきますね」
と、少し困った顔でそう返し、道具を取りに部屋へと戻るのだった。
リーベンガジェット――家庭用ガジェットは、簡単に言えば電気の代わりに魔力で動く家電機器(家魔機器?)……といった感じです。
魔法的な方法(力)で動作している部分があるので、家電と完全に同じ仕組み……というわけではありませんが、構造はかなり近いです。




