第2話 越える者、破る者。歴史改変世界。
「いやほら、都合よく現れすぎというか……今まで王都に居た人間が、急にグランベイルまでやってきたりするかな……って」
「あー、まあ……そうか。そう思ったか……」
ラディウスはそう呟いた後、これ以上何も言わずにいるのも良くないと思い、
「……実の所、『グランベイルで何かが起きて壊滅する』未来から俺は来た」
と、とりあえずそれだけ告げた。
自身が魔法を発展させすぎた結果、この国を、周辺の国を住まう人間もろとも滅ぼしていくような国にしてしまった未来から来た……とは、さすがに言えなかったのだ。
「あ、やっぱりそうだったんだ。……カルティナが、未来を知っていて自分の両親を助けようと思ったという事は、そのカルティナに間違って殺されかけたラディもまた、未来の人間って事になるんじゃ? って、そう考えていたんだけど……正解だったわけだね」
「ああなるほど、たしかにそうだな……。もっとも、グランベイルへやって来たのは本当に偶然なんだけどな。ただ、その道中で『グランベイルで何かが起きて壊滅する』ってのと『聖女が死ぬ』ってのを思い出して、せめてそれは阻止しないと……と、考えた感じだ。……聖女がセシリアだったのは想定外だったが」
「……あ、やっぱり私が死ぬのが本来の歴史だったんだ」
「んー……それはどうだろうな? ヴィンスレイドという『この世界には本来存在しないはずの人間』が現れた事がその元凶である以上、それも『改変』のひとつだと考えられなくもないぞ。つまり……本来死なないはずのお前が、ヴィンスレイドの出現によって死ぬという『悪い状況』になってしまったと考えれば、俺がお前を助けたのは、単に『元の状態に戻した』だけって事になるだろ?」
ややネガティブな方向に思考が向いたセシリアに対し、ラディウスはそんな事を一気に語り、無理矢理思考をポジティブな方向へと向け直そうと試みる。
「そ、それはまあ……たしかにそうだけど……」
「だろう? 改変に改変を重ねた上に成り立つのが今の歴史だというのなら、それはもう何が正しいのかなんて誰にもわからん。だから、ビブリオ・マギアスの目的というのは、正直破綻しているとしか思えん。というか……そういう言葉で賛同する人間を引き寄せている――いや、自ら信念を持って動いてくれる『駒』を作っているようにも感じられる」
「な、なるほど……。そう言われてみるとたしかにそう……かも?」
ラディウスの捲し立てるかの如き説明に、セシリアは飲まれるような形で妙な納得感を抱きつつも、若干困惑して首を傾げた。
「そして、ビブリオ・マギアスと魔軍がどういう関係性なのかも気になる所だ。俺としては、ビブリオ・マギアスというのは、魔軍の目的の為に動いてくれる都合の良い『駒の集団』なんじゃないかと考えているが、それも確証があるわけじゃないしな」
「言われてみると、ビブリオ・マギアスと魔軍って、厳密には別の組織なんだっけね。互いに同調して動いているせいで、同じ組織に見えるけど」
「ああ。……案外、向こうの世界のアルベリヒとかも繋がりがあったりするんじゃないか……と、少し思わなくもない。ヴィンスレイドが向こうの世界の人間だった事を考えると、な」
「たしかに……。実はあいつらが歴史改変を繰り返しているという可能性もあるよね」
「ま、そういう事だ」
ラディウスはセシリアに対し、そう返しつつ肩をすくめてみせる。
そして……
――歴史改変を繰り返した世界……か。
たしかに過去に戻ってきたはずなのに、色々と異なる部分があった。
それは、誰かが改変した結果だと考えれば納得がいく。
しかし……そうなると『本来の世界の歴史』というものが一体どんなものなのかが少し気になるな。
……って? 待てよ? 『向こうの世界』は異なる歴史を歩んだ世界だよな……
こっちの世界が歴史改変を繰り返した世界ならば、あっちの世界はなんだ?
歴史改変が一度も行われなかった世界なのではないか?
いや、だが……あっちの世界でもあのガジェットを持つ者は存在する。一度も過去改変が行われていないとは思い難いな……
もっと根幹となる世界が存在し、そこからこっちの世界も向こうの世界の分岐し、更に過去改変が行われ続けた結果が今……なのか?
……駄目だ。さっぱりわらかんな。古の時代にあったという災厄、そして未だに誰も立ち入れていない場所……それらに、この謎の答えに繋がる何かが隠されていそうではあるが……
前を歩くセシリアへと視線を向けながら、ラディウスはそんな事を考えた――
というわけで(?)段々とあれこれと解明されていない謎の核心へ向かって進んでいきます。
どうしても先に語っておかないと唐突な展開になってしまう為、やや足踏みしているような話が続いていますが、徐々に加速していく予定です。
といった所でまた次回! 次の更新も平時通りの更新間隔となりまして……3月6日(月)を予定しています!




