第7話 此方と彼方。侵食する魔法。
「はぁっ!? ウンゲウェダ・ドラウグが常駐魔法だと……!?」
ラディウスの告げた一言に、驚きの声を上げるアルフォンス。
「魔法があんな動きして襲ってくるなんて、聞いた事ないのだわ!?」
クレリテもまたそんな風に驚きの声を上げるが、それに対して、
「いえ……でも……『腕が飛び出してきて薙ぎ払う』魔法とかも、あるにはあるのです。というか、実際に使えるのです……」
「言われてみると……魔軍事変の時に、首謀者が『自身を喰らわせた』魔法もあったね……」
と、メルメメルアとセシリアが内心驚きつつも、冷静な口調で言葉を紡ぐ。
「ブロブやリビングアーマーなどの魔法生物の活動を維持している極小の疑似精霊……あれも、常駐魔法と言えば常駐魔法よね……」
「なるほど……そうして並べてみると、割と『あのように動く魔法』自体はありますね……。まあ……向こうの世界からというのは、にわかには信じ難いですが」
ルーナの発言に続くようにして、顎に手を当てながらそう言ってラディウスを見るリゼリッタ。
「そうだろうな。だが、『魔導障壁を侵食するブレス』『倒した後、復活するまでの間に探知に引っかからない』『水中から聞こえる咆哮』の3つが、それを示している」
「……どういう事なのだわ?」
ラディウスの言葉に首を傾げるクレリテ。
そして、クレリテ以外の他の面々も似たような反応だった。
「魔導障壁ってのは、基本的に障壁の表層にぶつかった力を、表層の魔力が相殺し続ける仕組みだ」
「そうね……。それで、相殺が追いつかなくなると、そこに向かって魔力が集中的に流れ込んで行くのよね? ……って、あっ!」
ラディウスの説明にルーナが顎に手を当てながら、そう返した所で気づく。
「――それでも追いつかなくなると、ぶつかってくる力に負けて、徐々に壊れていくわけだが……」
「その壊れていく過程が、視覚化されたのがヒビだわ……っ!」
ラディウスの説明を引き継ぐようにして、そんな風にルーナが声を大にして告げる。
「……なるほど。たしかにそう説明されると、あんな風に溶けていく……『侵食する』わけがねぇってのが分かるな。ヒビが入るか、一瞬で砕けるかのどちらかしかありえねぇ」
ラディウスとルーナの言葉を聞いたアルフォンスがそんな風に口にすると、
「……どういう事なのだわ? さっぱり理解出来ないのだわ」
なんて返すクレリテ。
「……あー……。例えばだが、俺たちの軍勢が渓谷の中に本陣を敷いていて、帝国の軍勢が渓谷の外から攻め入って来たとしたら、俺たちの軍勢はどうやって本陣を防衛する?」
「それなら、渓谷の狭い場所で迎え撃つのだわ。味方が倒されてもすぐに別の味方でその穴を埋められて、前線が後退しづら……」
アルフォンスの例え話に対し、クレリテはそこまで返事をした所で言葉を発するのを止める。
「……あああああああっ!! 『味方の補充』が維持出来ている間は、『前線が後退する』なんて事はまずありえないのだわ! つまり……『魔力の供給』が維持出来ている間は、障壁が『じわじわと溶けていく』――『侵食』されたりはしないのだわ!」
声を大にしてそんな事を言うクレリテを見ながら、
「……今の例えで理解するってあたりが、『軍勢を動かす者』って感じだよね……」
と言って、肩をすくめてみせるセシリア。
「そう言うセシリアも、今ので理解したように見えたわよ?」
「うぐっ、否定出来ない……っ」
ルーナの突っ込みに対し、セシリアが大げさに片手で胸を抑える仕草をしながらそう返す。
「まあなんにせよ……どんな攻撃を受けようとも『ヒビが入っていって壊れる』はずの障壁が、『溶けるようにして壊れていく』というありえない現象が起きたというわけですね」
「ええ、そういう事になるわね」
纏めるように言ったリゼリッタに対し、頷いてみせるルーナ。
「――その原理上あり得ない現象も、『向こう側の世界』を経由する事で可能になる。そうだな……今の例えで言うなら、一度こっちの世界に軍勢を移動させて、そこから敵の防衛線の先まで行って、また向こうの世界へ移動する感じだな」
「一瞬にして防衛線をぶち抜かれて混戦状態に陥るのだわっ!」
「その『防衛線を突破する敵兵』を魔法――術式に置き換えると……『魔導障壁のある場所を通過する魔力』となり、それが可視化されたのが、あの溶けていくような現象……『侵食』というわけですね」
ラディウスの説明に、納得したような表情でそう返すクレリテとリゼリッタ。
「色々と理解出来たのです。そうなると残りのふたつは……」
メルメメルアもまた、納得の表情で頷きながらそう呟くように言い、そして思考を巡らせ始めた――
今回は、実にややこしい事を説明する話となりました……
まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も平時通りの間隔となりまして、2月22日(水)を予定しています!




