第5話 此方と彼方。魔導障壁と侵食。
セシリアの呪文――始動ワード――が発された直後、ウンゲウェダ・ドラウグの周囲に雷光を纏った竜巻が幾つも発生。
その全てがウンゲウェダ・ドラウグへと一斉に、そして何度も往復するようにして襲いかかった。
「グガアアアァァァアァアアァアァァァァアッ!!」
ウンゲウェダ・ドラウグが崩壊と再生を繰り返しながら、苦悶の咆哮を上げる。
その様子を眺めていたクレリテとリゼリッタが、
「うわぁ……エッグイ魔法なのだわ……」
「継続的に攻撃する上位魔法……ですか。たしかにこれなら、復活してきてもまたすぐに倒す事が出来ますね……」
と、それぞれそんな事を口にする。
「だが、あれだけの攻撃をぶつけているのに、一向に消滅する気配がねぇな……」
そうアルフォンスが言った直後、
「それならついでにこれも!」
などと言い放ちながら、最大出力でビームを放つセシリア。
「!?!? なんか、スッゴイぶっといビームが剣から出たのだわ!?」
ビームがウンゲウェダ・ドラウグを吹き飛ばす光景を目にして驚くクレリテ。
そんなクレリテに対し、首を傾げながら、
「あれ? クレリテにはまだ見せてなかったっけ?」
とセシリアがそう返すと、
「むしろ、私も見た事がないですね」
「同じく」
なんて事を、リゼリッタとアルフォンスが言った。
「それはそうでしょ。そのビームが使えるようになったのは、聖木の館へ攻め込むちょっと前なんだから……」
「あー……そう言えばそうだった。短い間に色々ありすぎてすっかり忘れてたよ」
呆れ気味に肩をすくめながら言うルーナに、そう言って頬を掻くセシリア。
そして、
「っと、それはそうと……消滅した……っぽい?」
と、周囲を見回しながら言葉を続けた。
「崩壊どころか、完全に消し飛んだからな。さすがにもう復活出来な――」
「ゲギィィィイイイィィィイイィィイイィィッ!」
俺の言葉を遮るように咆哮が響き渡り、ウンゲウェダ・ドラウグが水中から顔を出す。
「えっ!? もしかして湖に潜ってた!?」
セシリアが驚きながらそう口にする。
それを聞いてラディウスは思考を巡らせる。
……たしかに一見するとそんな感じだが、セシリアの放ったビームをまともに食らっていたはず……。その状態で水中に潜れるものなのか……?
そして……潜っていたとしても、マリス・ディテクターをはじめとした探知魔法のどれかに必ず引っかかるはずだ。なのに、まったく引っかからないというのは一体……
「まさか、こちらの探知形式に引っかからないような、そんなステルス機能を有しているとでもいうのか……?」
ラディウスがそう呟いた直後、ウンゲウェダ・ドラウグの口が開く。
「ブレスが来るのだわっ!」
クレリテがそんな風に警告した通り、ウンゲウェダ・ドラウグの口から黒いブレスが放射される。
と同時に船の魔導障壁が展開され、そのブレスを受け止めた。
魔導障壁の表面では、バチバチと火花を散り続けるが、突破される様子はまったくない。
それを見ながら、
「そうだろうなとは思っていたが、ラディウスが改造すっと凄まじい事になんな……」
「はい。予想以上に頑丈になっていますね……。この魔導障壁……」
「前のだったら、もうヒビが入っていたのだわ」
なんて事をそれぞれ口にするアルフォンスたち。
「とはいえ、徐々に壊されていっているから、いつまでも保つわけじゃないけどな」
そう肩をすくめながらラディウスが返した所で、
「というか……壊れる速度が少しずつあがってない?」
と、魔導障壁を見ながら告げるセシリア。
そしてそこにルーナが、
「そもそも壊れるというより、これは溶けて――いえ、侵食されているというのが正しい気がするわね……」
と、そんな言葉を続ける。
この魔導障壁を修理した時に、そう簡単に壊れるようなものではないのに、何故壊れたのかと不思議に思っていたが、こういう事か……
だが、魔導障壁をブレスが侵食する? しかも、その速度が徐々に……増す? そんな意味不明なブレスなんて吐ける生物が存在するのか……?
いや、実際に目の前にいるのはたしかだが、しかし……
ラディウスは魔導障壁越しにウンゲウェダ・ドラウグを見ながら、そんな事を考えるのだった――
以前と比べて妙にタフなウンゲウェダ・ドラウグですが、そんなに長い戦闘にはなりません。
といった所でまた次回! ……なのですが、申し訳ありません……諸々の都合により、次の更新は平時よりも1日多く間隔が空きまして……2月16日(木)を予定しています。




