第4話 此方と彼方。水中より現れしもの。
「……ま、とりあえず今はこいつを妖姫に見せて、何か分かるか聞いてきてみるぜ」
と、そんな風に口にした次の瞬間、
「――幾つか判明した事があるぜ。その情報が役立つかは分からねぇが、とりあえずここに書き記してきたわ。まあ……俺の頭じゃ何言ってんのかさっぱりだったから、そのまま言っていた通りの言葉と術式の図を書いてきただけだがな」
なんて事を言いながら、ラディウスに対して1冊のファイルと借りた認識票を手渡すアルフォンス。
「いや、十分すぎる程だ。助かる」
ラディウスは礼を述べながらファイルを受け取ると、それを早速開いて中を確認し始める。
その様子を見ていたルーナが肩をすくめながら、
「……毎度の事だけど、向こうの世界との行き来が一瞬すぎて、話の展開が混乱しそうになるわ……」
などと呟くように口にすると、メルメメルアがそれに対して「同意なのです」と返し、セシリアも無言で頷いて同意を示す。
「なるほど……こういう仕組みなのか……だとすると……」
なんて事を呟きながらファイルを眺めるラディウスに、
「どういう仕組みなの?」
と言いながらルーナが近づ……こうとした所で、
「ルオオォォォォオオォォォォォォオオォォオオォォォッ」
という、底冷えのするような咆哮が響き渡った。
「っ! この咆哮はっ!」
「ウンゲウェダ・ドラウグなのですっ!」
リゼリッタとメルメメルアがそう声を大にして発した直後、高い波が発生し、船体を襲う。
そしてそれと同時に、大量の水が甲板へと降り注ぎ、
「うわわーなのだわー!」
と、慌てるクレリテ。
しかし、その水がクレリテたちを濡らす事はなかった。
それは、ラディウスがいつの間にか手にしていたガジェットで、降り注ぐ水を弾いた為だ。
「さすがラディ、良い物を持っているのだわ」
「それはたしか……ドールガジェットのソーサリーブラスターに対して使った奴です?
」
クレリテの言葉に続くようにしてそう問いかけるメルメメルア。
それに対して、
「ああ、そうだ。何気に久しぶりに使ったな」
なんて返すラディウス。
「ソーサリーブラスターを防ぐような障壁を、水を防ぐ為に使うだなんて、物凄い贅沢な感じがしますね……」
「たしかにそうだな。……って、んな事悠長に言ってる場合じゃねぇっての」
アルフォンスはリゼリッタにそう返すと、湖面に姿を現したウンゲウェダ・ドラウグへと顔を向ける。
それに続く形で、ウンゲウェダ・ドラウグを見たメルメメルアが、
「このウンゲウェダ・ドラウグ……。私たちが遭遇した時のよりも大きくないです?」
と、そんな事を言うと、
「そうなのだわ。良くわからないけど成長しているのだわ」
なんて返事をするクレリテ。
「私は成長しているのではなく、別個体だと思いますけどね……」
リゼリッタが自身の推測を付け加えるように口にすると、
「ま、どっちでもいいんじゃないかな? 倒してしまえば」
などと言って、ラディウス製のガジェットを構えるセシリア。
そして……
「此に満ちし風雷。其、今こそ猛りて全てを毀つ眩き狂飆となれ! ――ブラインディング・テンペストッ!」
と言い放って、いきなり上位の攻撃魔法をぶっ放したのだった。
前回同様、妖姫とアルフォンスの会話シーンはまるっとカットしていたりします。
まあ、テンポが悪くなるだけですし……
といった所でまた次回! 次の更新も平時通りとなりまして、2月12日(日)を予定しています!
さて……余談ですが、セシリアがぶっ放した魔法『ブラインディング・テンペスト』の意味は、『眩き大嵐』……なのですが、『痛みの激しい暴風(あるいは、痛みの激しい騒乱)』という意味もあったりします。
なお、その理由については次の話の冒頭で分かると思います。




