第3話 此方と彼方。妖姫と認識票。
「――この辺でさっきは遭遇したんだが……」
甲板の縁で周囲を見回しながらそう呟くように言ったアルフォンスに続いて、
「マリス・ディテクターが無反応なのです。周囲には存在しなさそうなのです」
と、同じく周囲を見回しながら言うメルメメルア。
「一応曇ってはいるけど、悪天候とは言えないから……とか?」
「たしかに悪天候の時に出現する……と、今までは考えられていたのですが、どうやら晴れていなければ姿を現す事があるようでして……」
空を見上げながら発言したセシリアに対し、リゼリッタがそんな風に答える。
「晴れ以外なら出現する……か。良く分からない性質だな……。太陽に弱いとかなのか?」
「倒したら復活するっつー辺りは、アンデッドっぽい所があるが、アンデッドっつーわけでもねぇからなぁ……」
アルフォンスがラディウスに対してそう返事をした所で、
「アンデッドだったら、さっきの交戦で仕留められていたのだわ」
と、そんな風に言うクレリテ。
「まあそういうこったな」
アルフォンスはそう言いながら肩をすくめてみせると、そのままリゼリッタの方へと顔を向け、告げる。
「リゼ、ここにはもういなさそうだ。船長に移動するよう伝えてきてくれないか?」
「分かりました。どの辺りに移動しますか?」
リゼリッタにそう問われたアルフォンスは「そうだな……」と口にしてしばし考え込んだ後、
「……奴がもしディグロムの方から移動してきやがったのだとしたら、ディグロムがある方角の真逆へと進んでいやがるかもしれねぇな……。――よし、南南西へ向かうぞ」
と言った。
「南南西ですね。それではそのように伝えてきます」
リゼリッタはそう返事をすると、船長に向かう先を伝える為、近くの扉から船内へと入っていく。
それを見送った所で、
「ところで……何か俺たちに用があって来たんじゃないのか? カチュアがビブリオ・マギアス――いや、正確に言うなら魔軍の将か――の手によって、異次元空間だかなんだかに落とされたっつーのは、カルティナ経由でテオドールから聞いてるが……」
と、そんな問いの言葉をラディウスたちに投げかけるアルフォンス。
問われたラディウスは「実は――」と切り出し、妖姫と接触しているかを、そして妖姫を拘束している鎖の術式についての情報が無いかなどを、現在の状況について説明しつつ問う。
「ああなるほど、そういう事か。それならまさに今、向こう側の世界では妖姫と接触した所だ。つーか……それもあって、こっちの世界でラディウスたちが来るのを待っていた面もあるんだわ」
「え? そうだったんですか?」
アルフォンスの説明を聞いたセシリアが、ラディウスに代わる形で問うと、
「そうなのだわ。こっちの世界にいれば、向こう側の世界の時間は進まないのだわ。それを利用しているのだわ」
という返事を横からするクレリテ。
「っとと……。アル、向こうに移動したという事は、何か聞いてきたのだわ?」
クレリテの問いかけを聞き、ラディウスは思う。
――おそらく、向こうへ移動していたんだろうが……やっぱり傍から見ると全く動いていないようにしか見えないな。
と。
「ああ。その『似ている術式』とやらを解除出来る代物を見てみれば、何か分かるかもしれねぇってよ」
アルフォンスはクレリテにそう返しつつ、ラディウスの方を見る。
それに対してラディウスは「それなら……」と答えながら、ストレージから認識票を取り出し、アルフォンスへと手渡す。
「それは……帝国軍の一部の部隊――機密性の高い部隊で主に使われている特殊な認識票ですね」
いつの間にか戻ってきていたリゼリッタが、認識票を覗き込みながらそんな風に言うと、それに対してアルフォンスが、
「うおっ! いつの間に戻ってきたんだ……」
と、驚きながら返事をする。
「今です。船長には伝えてきましたよ」
「そ、そうか……ありがとよ」
リゼリッタにアルフォンスがそう返した所で、クレリテがやれやれと言わんばかりの表情で首を横に振り、ため息交じりに呟く。
「相変わらず、いきなり姿を現すから驚くのだわ……」
「まったくだぜ……。ってまあ、それはそれとして……機密性の高い部隊が使っている認識票……か。当然、魔導機甲師団もこれを使ってるっつーわけだな」
「はい。というか、アルベリヒ麾下の団の兵士は例外的に何らかの実験の一環として、全ての兵士がそれを使っているそうです」
そうリゼリッタに告げられたアルフォンスは、手元の認識票に視線を向け、
「なるほどな。こいつには『色々とありそう』だな」
と、呟くように言った。
妖姫とアルフォンスの会話シーンを描写するか迷ったのですが、単に長くなるだけなのでスパッと全部カットしてみました。展開的には問題ないと思うのですが……
とまあそんな所でまた次回! 次の更新も平時通りとなりまして、2月9日(木)の予定です!




