第1話 彼方と此方。ふたつの世界の技術力。
「――よし、これで仕込みは完了だ」
ラディウスがゲートの近くに、作ったばかりのガジェットをセットする。
「随分と簡単だね。でもこれ、幻兵とかに入り込まれたら壊されない?」
「ああ、その問題に関しては、こうして……」
セシリアの問いかけにそう返しつつ、ガジェットを操作するラディウス。
すると、ガジェットがすうっと音もなく消えていく。
「あ、消えた!」
「以前、向こうの世界でインビジブルタイプの隠蔽魔法で隠されていたガジェットと遭遇した事があったんだが、それと仕組み的には同じだな」
驚くセシリアにそんな風に説明するラディウス。
「そう言えばそんなのあったのです。たしか、レゾナンスタワーの近くの湖畔に仕掛けられていて、私の持つ看破魔法で破ったですよね」
「ああそうだな。隠蔽魔法の術式をあちこち改良して、あの看破魔法でも破られないようにしておいたから、気になるなら試しに使ってみるといいぞ」
そうラディウスに言われたメルメメルアが手持ちの看破魔法を使ってみる。
しかし、その魔法は『そこには何もない』と認識、および判断したらしく、何も起こらなかった。
「本当なのです! なんの反応もないのです! たしかにこれなら、幻兵が来てもバレないのです!」
「無論、これだけじゃ万全だとは言い難いから、法国側のゲートにも同じ物を設置して、こっち側のガジェットを破壊されても『復旧』させられるようにはしておくけどな」
感嘆の声を上げるメルメメルアに対し、ラディウスがそう告げると、
「そんな事も出来るですか?」
と、首を傾げながら問うメルメメルア。
「ああ。もっとも……あくまでも『復旧』であって、向こうのゲートで同じ事が出来るわけじゃないけどな。要するにバックアップという奴だ」
「バックアップ……。なるほど、納得なのです」
ラディウスの説明に対し、頷いて納得の表情を見せたメルメメルアに、
「え? バックアップって言葉の意味分かるの?」
なんて事を不思議そうな表情で問うルーナ。
「向こうの世界では、冒険者はIDで管理されていて、その情報はデータベースに保存されているのです。そして……そのデータベースの情報は、何かが起きて消えてしまった時の為に、別の場所にもコピーされて保存されているのです。――これをバックアップと呼んでいるので、理解出来たのです」
「な、なるほど……。うーん……向こうの世界の技術について、もう少し詳しく知りたいわね……」
メルメメルアに説明されたルーナがそんな事を口にすると、
「まあ、向こうの世界の状況が落ち着いたら、帝都とか回ってみたいってのは俺も思うな。こっちの世界よりもかなり技術力――文明が進んでいるし」
と、ラディウスが同意するように言う。
「たしかにあのクルマっていうのとか便利だよね。鉄道もこっちより緻密に張り巡らされているんだよね?」
「そうだな。それに……数回しか使った事はないが、どれもこっちのものより速かったな」
セシリアの問いかけに対し、ラディウスはそう答えつつ思う。
――地球……というか日本で良く使っていた鉄道と遜色のない速さだったしな……
一体どういう理由で、こちらの世界とあちらの世界で、ここまでの差がついてしまったのかってのが、やっぱり気になるよなぁ……
と。
何気にタイトルが少し変わりました(というより、今までのタイトルの後ろにサブタイトル的なものが付いた感じです)
ふたつの世界を舞台にする話なので、タイトルからだとそれが分かりづらいなと『今更』感じたので付けてみました。
さて、新しい節の開始ですが、いきなり随分前の話が登場していたりします。
一応技術力のイメージとしては、ラディウスたちの世界=中世と近代の境目(魔法の存在を加味しても現代よりは少し劣っている)、メルメメルアの世界=近代と近未来の複合(現代よりも劣る部分も優れた部分も両方ある)といった感じだったりします。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は平時通りの間隔となりまして……2月3日(金)を予定しています!
※追記
誤字を修正しました。




