表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/636

第3話 転生者は向かう。グランベイルの町へ。

「もうすぐグランベイルに着きますよ」

 執事風の格好をした初老の男性――マクベインが、馬車の御者台からラディウスの方に向かってそんな言葉を投げかける。

 

 ――この頃は、まだ鉄路がほとんどなかったんだよな……。あと20年もすると、主要な都市や城砦の間を結ぶ鉄道網が作られる事で、馬車はあまり姿を見なくなるんだが……

 まあともあれ、途中でグランベイル方面へ向かう馬車に乗せて貰えてラッキーだ。歩くとあと1日はかかっただろうからな。


 ラディウスはそんな事を考えつつ、

「わかりました。ありがとうございます。お陰で予定より1日早く着けそうです」

 と、お礼の言葉を口にした。


 するとマクベインに代わりに、少女の声が横から聞こえてくる。

「問題ないのだわ、ラディ。どうせ同じ方向だったのだわ。それに、マクベインからは聞けないような、なかなか面白い話が聞けて面白かったのだわ。あと、ラディがガジェットを使って作った、コン……ペートー? とかいうお菓子は美味しかったのだわ!」

 

 ラディウスが声のした方へと顔を向けると、そこには、肩まであるウェーブのかかった薄桃色の髪と、葵色の瞳を持つ修道服を着た少女――クレリテの姿があった。

 

「王都で買った砂糖の使い道が他に思いつかなかったから、なんとなく作っただけなんだが、うまかったのなら何よりだ。いかんせんガジェットで無理矢理作ったから、形がちょっと微妙だったが……味は本物と大差なかったはずだ」

 と、答えるラディウス。

 

 無理矢理と言っている通り、本来の製法を完全に無視してガジェット――というか、複数の魔法を組み合わせて強引に生成したものなので、果たしてそれを金平糖と言って良いのかというと……正直微妙な所だ。

 

「あれ、もっと欲しいのだわ!」

「ん? ああ、一応少しだけ追加で作っておいたから、後でやるよ」

「ありがとうなのだわ! ラディとあのお菓子に出会えた事を剣神様に感謝するのだわ!」

 そう言って、クレリテは自身が属する神剣教会のシンボルである、翼と剣が組み合わさった紋章が描かれたペンダントを懐から取り出し、それを持って祈るクレリテ。

 

 その紋章に目を向けながら、ラディウスは思う。

 ――神剣教会、か。以前の俺はあまり……というか、まったく接点がなかったから、よくわからないんだよなぁ……教会の行事とかにも行った事ないし。

 道中でクレリテから、小さな町や村を巡って日曜学校のような事をする、というのは聞いたが……。教会の人間全員がそれをするわけじゃないだろうしなぁ。

 

「――クレリテは、グランベイルを通過するだけなんだったよな?」

「その通りなのだわ。グランベイルには大聖堂があるのだわ。ついでに言えば、そこには聖女もいるのだわ。クレリテたち巡回シスターは、教会のない、あるいはあっても神父やシスターが常駐していない町や村を回って、知識や教義を教えて回るのが主な役割なのだわ。だから、グランベイルに留まる理由はないのだわ。それに……グランベイルの先にあるカレンフォートという街に、ちょっとばかし用があるのだわ」

「なるほど……たしかに、そんな事言ってたな」

 ラディウスは『ちょっとばかし』の所が気になったが、あえてぼかしている所を詮索するのはあまり良い行為ではないと考え、聞くのはやめておいた。

 そして、もう1つ気になった聖女について、過去の――といっても、この時代からすると未来なのだが――の記憶を思い出してみる。

 

『行方不明の聖女セシリア、怪死体で発見される!』


 という、新聞の見出しがラディウスの頭に浮かんできた。 

 ――まさか、これか? 

 これってたしか、行方不明になった聖女が、全身をズタズタに引き裂かれた怪死体で発見されたんだったよな。

 で、結局未解決のままだったはずだ。まあ、俺の作ったガジェットのせいで街自体が消滅してしまったから、解決される事は永久にないだろうが……名前が幼馴染と同じだったから良く覚えているな。

 まあ、少なくとも聖女のセシリアとは別人だろうが。

 

「なあ、その聖女ってのは、もしかしてセシリアって名前か?」

 自分が王都からバックレた事で、歴史が変わっている可能性も少しだけだが考えられたので、確認の意味も込めてそう問いかけるラディウス。

 

「その通りなのだわ。よく知っているのだわ」

 クレリテにそう返され、ラディウスはどうやら歴史が変わったりはしていないようだな、と思う。

 

「いや、名前を偶然王都で聞いて知っているだけだ。――どんな人間なんだ?」

「……半年ほど前に、神器に選ばれた女なのだわ。性格も容姿も文句のつけようがない良さで、実に気に食わないのだわ。気に食わないのだわ。気に食わないのだわっ。絶対、あんな性格じゃないのだわっ」

 忌々しげな表情で言うクレリテ。


 それを見てラディウスは、2回どころか、3回も気に食わないと言ったぞ、今……と、そんな事を思うのだった。

金平糖って凄い時間がかかるんですよね。作るのに。


追記:誤字を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ