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第9話 冥闇の彼方。幻兵と古き籠手亭。

「いらっしゃいませー!」

 古き籠手亭に入ってきた冒険者風の男性たちにそう声を投げかけるルティカ。

 

 その冒険者風の男性たちは周囲を見回した後、その中のひとりが代表するように、

「すまない。我々は客ではなく、とある依頼で来たのだが……ここに亜人種の娘が来なかっただろうか?」

 と、そんな風に問いかける。


 丁寧な口調なのは、依頼イコール冒険者であると思わせ、不審がらせない為だ。

 かつては冒険者と言うと、言葉遣いを気にしないような者が多かったが、今では『個人』ではなく、『国』や『都市』といった所からの依頼が入る事もある為、時と場合に応じて言葉遣いを変える『交渉役』を担う冒険者も出てきた……という背景もある。

 要するに冒険者も、戦闘力や探索能力だけでは如何ともし難い時代になってきたわけだ。

 

 ともあれ、問われたルティカはというと、

「うーん……『亜人種かどうかは分からない』ですけど、ウチに宿泊しているメルルメという女性の方なら、先程外から戻ってきた所ですね」

 と、こちらも普段とは違う口調で答えた。


「ふむ、宿か……」

「奥に隠れているのか?」

「いや、裏手から逃げるつもりなのではないか?」

 と呟く冒険者風の男性たち。

 そう……言うまでもない話ではあるが、彼らはメルメメルアを追ってきた幻兵である。

 

 そして、顔を見合わせた後、

「私は『依頼人』と話をしてくるゆえ、少し席を外す。お前たちはここで待機していてくれ」

 と、ルティカに質問を投げかけた男性が口にして外へと出ていく。

 

 ――ここに人員を残すのは、酒場内に隠れていないかを調べるためっすかね。

 

 ルティカはそう思いながら残った男性たちに対して問いかける。

「ええっと……。ここであの方をお待ちになるという事でよろしいですか?」


「ああ、すまないがそうさせてくれ。無論、ただ待つだけ……というような真似はしない。ちゃんと食いモンや飲みモンも注文させて貰うつもりだから、そこは安心してくれ」

 残った男性のひとりが頷いてそんな風に言う。


 なにも注文せずに居座るのは、さすがに迷惑がられて印象に残りやすいのではないか……と、そう考えたのだろう。

 幻兵は、隠密行動や破壊工作、妨害工作といった事を担う関係上、なるべく人の記憶に残らないような言動をした方が色々と都合が良い。それ故に、そういう考え方に自然となるのである。

 

「わかりました。それでは、こちらへどうぞー!」

 そう言いながら、入口が良く見える席へと敢えて誘導するルティカ。

 そして、男性たちからの注文を聞くと、厨房へと向かった。


「――店内には店員がふたり、か」

「今の所、怪しい雰囲気の客もいないな」

「やはり、宿へ向かったと考えるのが妥当だろう」

 男性たちがそんな事を話していると、厨房から注文した飲み物を持って戻ってくるルティカ。

 そして、それらをテーブルの上に置きながら、

「すいませんー、ご注文いただいた『ブルーハンプクラブのボイル』なんですが、食材が切れていまして……」

 と、申し訳無さそうな表情で言った。

 

「む、そうなのか。食材がないのであれば仕方がないな。代わりの物を――」

「あ、いえ、すぐ近くで買えるので、少しお待ちいただけるのでしたら、材料を補充してご用意する事が可能でして……お待ちいただけるかどうかの確認をしに来たんです」

 ルティカがメニューを開いた冒険者――幻兵の、問いの言葉を遮るようにしてそう告げる。

 

「ああなるほど、そういう事か。我々は別に急いでいるわけではないし、それで全然構わない」

 むしろ長く居座るのに都合が良いと考え、そう返す男性。

 他の者もそれに同意するように頷く。

 

「では、そういたしますね。申し訳ありませんが、少々お待ちください」

 ルティカはそう告げるとその場を離れ、

「――『アメリア』さーん、私はちょっと手が離せないので、さっき話した足りない材料を代わりに買ってきてくれませんかー?」

 と、もうひとりの店員にそう声をかけた。

 

 すると、それを聞いたもうひとりの店員が無言で頷き、店から出ていく。

 

「……なあ、今出ていった店員が実は……って事はねぇよなぁ?」

「さすがにないと思うが……一応、戻ってくるか見ておくとしよう」

「ああ、もし戻ってこなかったら、この店自体がクロって事になるな。この店に怪しい点はない事は既に調べ済みだし、俺もありえないとは思うが」

 外に出ていった店員を目で見送った男性たちが、そんな事を口にする。

 

 ――そうっすよねぇ。戻って来なかったら怪しいっすよねぇ? 

 戻って来なかったら……っすけどねぇ?

 

 ルティカが男性たちの会話を聞きながらそんな事を考え、男性たちに背を向けた状態でニヤリと笑みを浮かべた。

『アメリア』と名前が強調されている時点でバレバレな気がしますね……


とまあそれはそれとしてまた次回! 

なのですが、12月に入って色々と詰まっている事もありまして……

申し訳ありませんが次の更新は平時よりも1日多く間が空き、12月12日(月)を予定しています。

更にその次も、もしかしたら1日多く間が空いてしまう形になるかもしれません……

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