第5話 冥闇の彼方。解析と繋がり。
程なくしてコンプリートと表示されたガジェットによって、奇妙な術式が映し出された。
「赤い線の……六角形? それに黒い靄……?」
「――どうにか術式を……完全とは言えないが、ある程度は情報を引っ張り出せたようだな」
首を傾げるルーナに続く形で、そんな風に言うラディウス。
「もしかして、これがカチュアに使われた魔法……です?」
という問いの言葉をラディウスへと投げかけるメルメメルア。
「おそらくな。詳しくは解析してみないとわからないが……」
「それなら、早速視てみるのです!」
ラディウスの問いかけにそう返し、ガジェットによって映し出されている術式の断片を凝視し始めるメルメメルア。
それは、異能の力で『用途』が視えないかと考えての行動だった。
「そうね。私も解析を試みてみるわ」
「それなら、赤い線の六角形部分を解析してみてくれ。俺は黒い靄の方を解析してみる」
「了解したわ!」
ルーナがラディウスに対してそう返事をしつつ、赤い線の六角形部分の解析を始める。
それに続く形で、ラディウスもまた黒い靄の部分を解析し始めた。
「え、えっと……私は……」
「そのままガジェットを持っていてくれ。継続的に情報を引き出す状態になっているんだが、その状態を維持していないと上手くいかないんでな」
自分だけ何もしないのはどうなのかと慌てるセシリアに対し、ラディウスがそんな風に言う。
「あ、そ、そうなの? じゃあ、このまましっかり維持しておくね」
そうセシリアが言った直後、黒い靄の中に何かの魔法陣のような物が薄っすらと見えてくる。
「やはり、靄の奥にもなにかあるな……」
ラディウスがそう呟きながら、解析を継続。
「この赤い線……扉、あるいは門のような感じがするわね……。まさしく『ゲート』の構造に似ているような……でも、あれとは色々と違う所もあるし、どこかとどこかを行き来するというよりは……落とし穴のような一方通行……?」
解析中のルーナがそんな事を呟くと、
「……たしかに、これは『対象を引き摺り込む』という用途があるようなのです」
と、異能の力で用途を知ったメルメメルアが言ってくる。
「引き摺り込む? どこへ?」
「……残念ながら、そこに関しては私の異能ではさっぱりなのです……」
セシリアの問いかけに対し、肩を落としながら答えるメルメメルア。
「いや、どこかに引き摺り込むものだというのが分かっただけでも十分……というか、有用な情報だ」
ラディウスはメルメメルアにそう返しつつ、更に術式の構成へと目を向けていき、
「――この闇の腕は……その前提であるのなら、捕らえて引き摺り込む為のもの……か。そしてこっちは、時間と空間への作用……。ルーナの言う落とし穴というのが、ある意味しっくりくるな……」
と、そんな呟きを続ける。
――メルメメルアとルーナの調べた内容をもとに考えると、色々と構造に納得出来る部分があるな……。うーむ……
ラディウスはそんな風に思いつつ、しばし考え込んだ後、
「うーん……。これは、カチュアが今囚われているであろう場所――おそらく異空間だと思うが――から『こちら側へ引っ張り上げる』のは、向こう側の状況が不明瞭である事もあって、さすがにすぐにとはいかなさそうだな……」
と言った。
それを聞いたセシリアとメルメメルアが、
「え……っ? む、難しいの?」
「ど、どうにかならないのです?」
と、悲壮感の滲む顔で、ラディウスに問いかける。
そんなふたりに対しラディウスは、
「そう慌てるな。あくまでも引っ張り上げるのがすぐには出来ないというだけだ」
なんて事を言って、敢えて自信ありげな雰囲気を醸し出しながらニヤリとした笑みを浮かべてみせる。
「どういう事?」
「――落とし穴に落ちた者をすぐに救出するのが無理な状況であっても、落とし穴に落ちた者と話をしたり、物資を渡す事は出来るだろ?」
首を傾げるセシリアに、ラディウスがそう返事をすると、メルメメルアがセシリアに代わる形で言葉を紡ぐ。
「それはまあ……たしかにその通りなのです」
そして、そのまま首をひねった所で、ハッとした表情をするメルメメルア。
「っ! もしや、カチュアとの『リンク』を復活させる事が出来る……という事です!?」
ラディウスは、そんなメルメメルアに対して頷きながら、
「ああ、そういう事だ。術式を調べた感じだと、幾つか問題がないわけではないんだが……こちらから無理矢理カチュアとの『リンク』を復活させるってのは、どうにか出来そうな感じだったんでな。まずはそれをやろうと考えている」
と、そんな風に言った。
思ったよりも長くなったのですが、句切れそうな場所が他になかった為、ここまで一気に来てしまいました。
といった所でまた次回!
さて、次の更新ですが……どうにか平時通りの間隔でいけそうな為、11月27日(日)を予定しています!




