第1話 素材を求めて訪れる。浮き森の沼。
「ここなら、シャドウソーンもマッドスラッグも両方いるはずだ」
カルティナの案内でラディウスが連れて来られたのは、ガーディマ遺跡の周囲に広がる『浮き森の沼』と呼ばれる場所だった。
「……浮き森の沼、話には聞いていたが……なんとも不思議な光景だな……」
ラディウスが目の前に広がる光景を眺めながらそんな風に言う。
そこは、水草や藻が生えている広い泥沼のあちこちに、宙に浮いている小さな島があり、そこに草木が生えているという場所だった。
それらの島は、どこもかしこも草木が数多く生えており、なるほどたしかに『浮き森』だと言われるわけだと納得せずにはいられない。
「ちなみに、奥にある遺跡も宙に浮いているぞ。――そうそう、ついでに言っておくが、遺跡の中は凄まじく空間が歪んでいてな……外から見た遺跡の大きさと、中の広さとが全く違うのが特徴だな。……まあ、それゆえに未だに完全踏破されていないんだが」
と、補足するように言うカルティナ。
――見た目との違い……か。おそらく、その遺跡にある古の時代に作られた空間制御を行えるような大型ガジェットの影響だろう。
にしても、誰もそのガジェットを見つけていないのというのが不思議だな。
周辺一帯の空間を制御する都合上、そんなに奥の方にあるとは思えないのだが……
ガジェットの所に容易に辿り着けない程、空間が歪んでいて広いという事なのだろうか?
……なんにせよ、なかなか興味深いな。機会があればじっくりと探索してみたいものだ。
なんて事を思いつつ、ラディウスは本来の目的のために、マリスディテクター・改を発動する。
と、たしかにシャドウソーンとマッドスラッグの反応があった。
「って、おいおい、結構いるぞ……。半径1000フォーネ――1カルフォーネ圏内に、シャドウソーン17体、マッドスラッグ56体か……。――マッドスラッグ多すぎじゃないか? シャドウソーンの3倍以上いるぞ」
「シャドウソーンは、遺跡への道の途中にいるのも多いゆえに結構狩られるようだが、マッドスラッグは下の沼地にいるからな。あえて狩る者は少ないそうだ」
ラディウスの疑問に、そう説明して返すカルティナ。
「なるほどな……。まあ、素材を得るには楽でいいか。一番近いのは……北83フォーネにいるマッドスラッグか」
「む? そこまで詳しくわかるのか?」
「ああ。俺のガジェットの探知魔法は、俺が改良した奴でな。そこそこ詳細な情報が得られるようになっているんだ」
「……それは、そこそこ……なのか?」
カルティナはラディウスの言葉に違和感を覚え、こめかみに人さし指を当てて首をかしげた。
無論、そこそこなどではないので、カルティナの感覚は割と正しい。
「そこそこだ。これだけじゃ、魔物の強さとか生命力とかが、視覚的にわかるわけでもないし」
「それはまあ……そうだが……」
そういう事ではない気もするが……と思いつつも、カルティナはとりあえず納得しておく事にした。
店での一連の出来事を思い出し、考えても仕方がないと悟った……というのもあるが。
「それより、とっとと狩るとしよう。まずは沼地のマッドスラッグからでいいな」
「ふむ、ならばフィクル蓮のある場所に行くとしよう」
ラディウスの言葉にそう返すカルティナ。
フィクル蓮というのは、500ガルギッドの重さがかかっても沈まないという蓮の葉で、1つが大体2フォーネ程度の大きさがあり、群生している場所では、足場として最適な代物である。
だが、ラディウスは、
「いや、別にフィクル蓮がなくても問題ないぞ。とりあえず、一番近い奴のいる方へ行ってみよう」
などという事をカルティナに告げて歩き出す。
――なんだ? もしかして、また何か特殊な魔法――浮遊魔法とかその辺りを使うつもりなのか?
まあ、ラディの事だからそういう魔法が使えるガジェットくらい普通に持っていてもおかしくはないが……
カルティナはそんな事を思いながら、ラディウスの後を追うのだった。
そういえば、重さや距離を示す単位の説明を一切していなかったですね……
近い内にどこかに記載します……!