第1話 遺跡探索録。浮遊岩塊群を焼く者。
「――なんだか、凄い事になっているですね……」
メルメメルアが、遠くに見えるガーディマ遺跡を眺めながらそんな風に言う。
「そうっすね。ボクも最初これを見た時は同じような感想を抱いたっすよ」
「初めて見た人間の大半は、驚くか呆れるか、そのどちらかの反応になるな。ま、この光景を考えれば、当然と言えば当然ではあるが」
ルティカとカルティナがそう言いながら、同じくガーディマ遺跡を眺める。
「見た感じ、この浮いている小島を渡っていって中に入る感じなのです?」
「ああ。ただ、この浮遊島群にはそれなりに魔物が住み着いているから、すんなりとはいかないがな。……特に擬態タイプの魔物には注意が必要だ」
メルメメルアの問いにそう返しながら、ラディウスから受け取ったガジェットを使い、マリス・ディテクターを発動するカルティナ。
そして、これがあればどこに『奴』がいるか一目瞭然だと思いながら、ガーディマ遺跡へ向かって歩き出す。
……すると、程なくして『奴』ことシャドウソーンの群れが認識出来る距離に入った事を察知。。
カルティナはそれと同時に、即座に魔法を放つ。
「赫灼たる葬送の焔、其は我が前に在りし全てを焼き尽くし、湮滅せん。――ブリスターリングベイルフィア!」
直後、カルティナの正面に生み出された魔法陣から、ドラゴンのブレスを思わせるような、凄まじい業火が放たれた。
そして、その業火は左右に振れながら扇状に広がっていき、浮遊岩塊群のあらゆるものを焼き尽くしていく。
「ちょ、ちょっとカルティナさん! やりすぎっす!」
目の前の光景に唖然としていたルティカが、ハッとなって慌てて止める。
しかし、発動された魔法に『停止する』という概念はない。
結果、魔法の効果範囲内にあった『燃える物』は全て焼き尽くされ、後に残されたのは、まるで冷えた溶岩か何かと見紛う程に黒くなった岩塊のみであった。
当然、効果範囲内のシャドウソーンは一体残らず、灰すらも焼き尽くされて消滅している。
「……う、うむ。私もこの魔法がここまでの威力とは思わなかった……。だがまあ、これでシャドウソーンの驚異は去ったというものだ」
「焼き払ったのは、シャドウソーンだけじゃないっすけどね……。カルティナさん、どんだけ嫌いなんすか、シャドウソーン……」
カルティナに対してそう返しながら、やれやれと首を横に振るルティカ。
「ま、まあ、その……今の一撃のお陰で、それ以外の魔物たちも逃げ出したようなのです。結果的に魔物と戦わずに遺跡の入口まで行けるようになったですし、良かったのではないかと……そう思わなくもない……のです」
ちょっとだけ引き気味な感じではあるも、そんなフォローの言葉を紡ぐメルメメルアに、
「う、うーん……言われてみると、たしかに魔物が一斉にいなくなったっすね。ここは魔物が集まりやすい場所なんすけど、今の一撃が強力な威嚇効果を生んだ……って感じっすかねぇ?」
と、周囲を索敵魔法で探りながら返すルティカ。
「ここ、魔物が集まりやすいのです?」
「そうっす。この辺りは、元々他の場所に比べて魔物の数が多いんすけど、どれだけ倒してもすぐにどこからともなく集まってくるんすよ」
「ガーディマ遺跡の放つ魔力が魔物を惹きつけているなんていう噂もあるが、真偽の程は不明だな」
――魔物を惹きつける魔力……。魔を使役する力……
やはり、ガーディマで研究されていた『技術』は、開発が成功している……という事なのですかね?
……そして、そうであるのなら、ラディウスさんたちから聞いた『ビブリオ・マギアス』――いえ『魔軍』が魔物を操っていたその力というのは……
ルティカとカルティナの説明を聞きながら、メルメメルアはそんな事を考えるのだった。
というわけで、ガーディマ遺跡探索編の開始です。
……カチュアがほったらかしにされている感がありますが、時間軸的にまだ誰もいなくなった事に気づいていないので……
(カチュア自身が並行世界転移を使っていない理由はいずれ……)
といった所でまた次回!
次の更新は最近の更新ペースと同じく、明後日(9月13日(火))を予定しています!
ただ……その次に関しては、諸々の都合で現在のペースではなく、平時の2日置きペースに戻る可能性が高いです……
余談ですが、『ブリスターリングベイルフィア』の意味は、『猛烈なる葬送の焔』のような感じです。
紛らわしいですが、ベイルファイア(=災いの火)でもベイルフィアー(=災いの恐怖)でもなくて、ベイルフィア(という古英語の単語)です。
……まあ、雰囲気的にはベイルファイアでも良いのではないかと思わなくもないですが(何)
呪文(と魔法名の意味)が、何故かアンブラルエントゥームに若干似ている箇所があったりします。




