第3話 情報収集。幻兵と書庫と。
「――という事なのです」
メルメメルアから映像の内容についての話を聞き終えたテオドールが、
「ふむ……。影兵に似た装束の者たちが、ラディウス殿の店舗へ侵入してきたのですか」
と、そう呟いて顎を撫でながら、その者たちが何者なのかについての思考を巡らせる。
――影兵に似ている侵入者……。潜入や調査を主とする者……でしょうか?
近いのは過去に『ビブリオ・マギアス』が秘密裏に入り込んで暗躍していた地で、『仮面の者たち』ですが、今回の者たちは仮面をつけていませんでした。
となると、それとは別の……いえ、『仮面の者たち』が作戦行動をとる際に使われていた『情報』の出処はたしか……
そこまで思考した所で心当たりがある事に気づき、メルメメルアたちにそれを告げる。
「……そうですね。おそらくですが、その者たちは『魔軍』の中で先行して国や都市へと潜入し、その地の調査を行いつつ、後続の『ビブリオ・マギアス』の者たちを誘導する役割を担う『幻兵』と呼ばれる存在であると思われます」
「幻兵……。なるほど、そのような者――集団が存在していたのですね。そして、それであれば、色々と合点がいくというものです」
カルティナがテオドールに対してそう言葉を紡ぐと、横で聞いていたメルメメルアが首を傾げながら問う。
「カルティナさん、それはどういう事なのです?」
「ああ。以前から『ビブリオ・マギアス』が、どうやって誰にも気づかれる事なく、各地にその魔手を伸ばしているのか気になっていたんだが、先行して入り込んだ上で、『ビブリオ・マギアス』の連中を手引きする者たちがいると考えれば、納得出来る……と、そう思ったのだ」
「なるほどなのです。ですが、そうなると……『ビブリオ・マギアス』が次にその手を広げようとしているのは、この街という事になるのです」
カルティナの説明に頷き、カルティナとテオドールを交互に見ながらそんな風に言うメルメメルア。
「この街やその周辺には、古の時代の遺産が色々と存在しておりますゆえ、それらを掌握したい……と、そのように考えているのではないでしょうか」
「――たしかに、近くに『ガーディマ』が存在している事を考えると、その可能性は大いに納得出来るというものなのです。やはり、ガーディマは早い内にしっかりと調査しておきたい所なのです」
テオドールの推測を聞いたメルメメルアがそう呟くように言うと、
「なるほど……彼の遺跡の調査は重要だと私も思います。しかし、彼の遺跡は何らかの影響によって時空間が歪んでおりますので、もし調査に行くのでしたら、それ相応の準備をしてから行く事をお勧めいたしますよ」
と、そんな忠告を口にするテオドール。
「うむ。さっきも言ったが、あそこを探索するなら明日だ。そして……可能ならば戦闘能力を有する者が、もうあとひとりかふたりは欲しい所でもある。なにしろ……あそこにはドールガジェットを小さくしたような、自動で動き回る魔導兵器や、奇妙な姿形を持つ魔獣など、他の遺跡では見かける事すらないような危険な存在が多数徘徊しているのでな」
「なるほどなのです。それであれば、今日はとりあえずガーディマの遺跡について詳しく調べておきたい所なのです。何か良い情報を得られる所はあるです?」
「うーむ……。そう言われても、冒険者ギルドであそこを探索した経験のある冒険者たちから話を聞くくらいしか、情報を得る手段はないのではなかろうか……」
メルメメルアに問われたカルティナが腕を組みながらそう返すと、
「この街にある聖堂の書庫に、幾つかそれに関する資料があると聞いた事がございます。おふたりはゲートを使ってこちらに来られたのですよね? であれば……聖堂の者に話をすれば、おそらく書庫を開いてくれると思いますよ」
と、そんな風に告げるテオドール。
「なるほどなのです! なら、早速聖堂と冒険者ギルドの双方で――いえ、まずは聖堂の書庫で情報収集するのです」
「ふむ……。ガーディマを探索するのなら、そのための準備をしなければならないから、私がそれを手伝うのは難しいな……」
カルティナがメルメメルアに対しそう返した所で、
「あ、ガーディマを探索するんすか? だったらボクが手伝うっすよ! 無論、準備の方もやっておくっす!」
という声が聞こえてきた――
『影兵』に続いて『幻兵』です。
もうこの物語も後半戦に入っている事もあり、ビブリオ・マギアスや魔軍の構成などについても、順々に明らかになっていく予定です。
といった所でまた次回! 次の話が結構出来ている事もあり、次の更新は平時よりも1日早くなりまして……8月31日(水)を予定しています!




