第4話 ラディウスの店。侵入者と魔軍の将。
「む? 何者かが入口から侵入してきたぞ……。魔法か何かで解錠したのか? ラディの施錠を破る者がいるとはな……」
「あ、いえ、このお店の扉自体はどこにでもある扉であり、鍵そのものは至って普通なのです。なので、それなりの解錠技術を持つ者であれば、解錠するのはそんなに難しくないのです。ただ、そうやって鍵を開けてもセキュリティガジェットは停止したりしないのです。なので、このようにバレバレなわけなのです」
「なるほど。普通の鍵にしておく事で、そういった者たちを敢えて入らせる……といった罠か。実に得心がいったよ」
カルティナはメルメメルアの説明に得心がいった表情でそう返すと、映し出されている『何者か』を凝視する。
さすがのラディウスも、そこまでは考えてないのではないかと思ったメルメメルアだったが、ラディウスならば考えていてもおかしくないとも思い、カルティナのその言葉に対して、何も返事をしなかった。
「ふむ、見た事のない人間だな……。だが、身に纏っている物が、影将の配下の者どもに似ているような……」
「はいです。以前交戦した影兵の装束に近い感じなのです。ただ……細部に違いがあるのが気になるのです」
メルメメルアがカルティナに対して頷き、そんな風に言うと、カルティナは考える仕草と共に、
「うーむ……。もしかしたら『オルディマとは別の一団』なのやもしれぬな。魔軍とやらの将が、オルディマひとりだけとは限らぬというか……複数の将がいると考える方が、自然なのではなかろうか」
と、そう返した。
「なるほど……たしかにそれには納得なのです。そして、魔軍の別の将が率いる一団……と考えれば、装束の細部の違いにも理解が出来るというものなのです」
「うむ。まあ、その辺は冒険者ギルドか宿酒場――ルーナの家あたりで聞き込みをしてみれば、何かわかるかもしれないな……」
カルティナのその言葉に、メルメメルアは思う。
――おそらく、既にゼグナム解放戦線の人たち……テオドールさんたちが、聞き込み済みな気がするのです。
ここは、こちら側のあの方々に接触してみるのが良さそうな気がするですね。
向こう側で話を聞くという手もあるですが……それだとカルティナさんに情報が伝わらないのが問題なのです。
「お? 忍び込んできた奴が増えたな……。まあ、連中が単独で忍び込むわけないか」
そうカルティナが口にした通り、映像には新たな人物がふたりほど映し出されていた。
そして、最初のひとりと合わせ、3人となったその者たちは奥へと進……もうとして、雷撃を食らった。
「雷撃魔法のトラップが仕掛けられているとは、さすがラディだな」
「先頭のひとりは直撃を受けて倒れたですね。ほかのふたりはそれに気づいて即座に回避行動を取っているですが」
「先頭が攻撃を受けた瞬間、回避行動か……。こういう時に硬直しないというのは、それ相応に訓練されている証左といえるな」
「はいです。しかも、これ以上踏み込むのは危険と判断して、倒れた人とその人が落としたガジェットを回収して即座に離脱していったのです。これも訓練されていなければ難しいのです」
カルティナの発言に対し、映像を見ながらそんな風に同意の言葉を紡ぐメルメメルア。
「そして、入ってきた時に私たちが見つけた欠片は、この時に回収し損ねたものだったようだな。どんな魔法のガジェットなのかまでは不明なままだが」
「とりあえず回収はしたものの、さすがに破片が落ちているかどうかまでは、気を配っている余裕はなかった……といった所なのですかね?」
「うむ、そう考えるのが妥当だと私は思う。この者たちは訓練はされているものの、非常に優秀……というわけではないようだな。もっとも、この者たちだけがそうなのか、ここに来ている連中全体がそうなのかまでは、さすがに分からないが。……後者であれば、楽なのだがな」
メルメメルアに対し、そう返事をして肩をすくめてみせるカルティナ。
「たしかにその通りなのです。……この映像からはこれ以上の情報は得られそうにないですし、それを含めて街中で情報を集めるとするのです」
「よし、それならばとりあえず、今から先程言ったルーナの家――宿酒場『古き籠手亭』へ行ってみるとしよう」
カルティナのその言葉に、同意するように頷くメルメメルア。
そうしてふたりは、ラディウスの店を後にして『古き籠手亭』へと向かうのだった――
ラディウスの店での話はこれで終わりとなり、次の話からは第11節になります。
……この章、なんだかんだで一番『節』の数が多くなりそうな気がします……
物語全体を見ると既に折り返しをすぎている事もあり、複数の視点で並行して色々と進展していく為、どうしても区切りが多くなりがちなんですよね……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、8月24日(水)を予定しています!




