第1話 ラディウスの店。術式とガジェット。
「っと……。それでセシリア、認識票の方はどうだ?」
「もちろん取ってきたよ! 傷も破損もないキレイな奴を! ……でも、こんなもの何に使うの?」
セシリアがラディウスに認識票――隊長と思しき人物の物――を手渡しながらそう問うと、ラディウスは、
「ああ。ここに組み込まれている魔法の術式を解析しないと、ディーゲルの娘――正確には中身……魂は違うが――を救出する事が出来ない状況でな」
と、そんな風に返事をしながら、すぐに解析を開始する。
「あ、そんな事になってるのね。だったら、私も解析を手伝うとするわ」
「ああ、そうしてくれると助かる。ちと厄介そうな術式なんでな……」
「ラディが厄介って言うとか相当よね?」
ラディウスに対してルーナはそう返して自身も解析を開始し……顔をしかめる。
「……うわぁ……。厄介って言う理由が良くわかったわ……。何よ、これ……。構成が複雑怪奇すぎるんだけど……」
「これ、結構時間かかりそうな感じだね……」
セシリアがラディウスとルーナを見ながら呟くように言うと、カチュアがそれに頷き、
「たしかにですです。――そういえば、メルお姉ちゃんの方はどんな感じなんでしょうかね? です」
なんて事を返す。
「あー……そういえば、グランベイルに行ってるんだよね。あっちはどうなっているのかな? あの連中が来ている事を考えると、少し危険な気がするけど、聖堂から出なければ大丈夫かな? ちょっとだけ様子を見に行ってみるのもいいかもね」
セシリアはカチュアにそう言うと、術式を解析しているラディウスとルーナを交互に見るのだった。
◆
一方その頃――
「なるほど、あそこがラディウスさんのお店なのですね」
「ああ。なんだかんだで、ここの所は開いている時の方が少ないような状況になってしまってはいるがな……」
ラディウスの店を少し離れた所から眺めながら、そんな事を話すメルメメルアとカルティナ。
離れた所から眺めているのは、周囲に『ビブリオ・マギアス』がいないかどうかを確認する為だ。
「うーん、パッと見……というか、感知魔法では『ビブリオ・マギアス』とかいう者たちがいるような感じはしないのです。カルティナさん、どう思うです?」
マリス・ディテクターを使いながら、そうカルティナに問いかけるメルメメルア。
それに対しカルティナは、感知魔法ではなく遠見の魔法で周囲を確認し、
「うむ、たしかにそれらしい輩は見当たらないな。まあ、既に物色し終えた後……という可能性もゼロではないが」
と、そんな風に返す。
「でしたら、早速中に入ってみるのです」
メルメメルアはそう言って店へと近づき、鍵を開け……気づく。
――これは……鍵を開ける事で、中のセキュリティガジェットが停止する仕組みになっているですね……
という事は、鍵を開けていない状態で中に忍び込もうものなら、セキュリティガジェットが反応するという事でもあるのです。
そんな思考を巡らせつつ、解錠された扉を開けて店の中へと入ると、床に何かが落ちているのが見えた。
「ん? これは……何かの破片……か?」
「ガジェットの破片だと思うですが……ラディウスさんがこんな所に、破片を落としたままにしておくですかね……?」
カルティナが拾い上げたそれを横から覗き込みながら、そんな風に言うメルメメルア。
「ふむ……。もしかすると、奴ら――『ビブリオ・マギアス』が侵入して、落としていった……とかか?」
「たしかにありえるのです。とはいえ……さすがにこの破片から、これがどんなガジェットであるのかを解析するのは厳しいのです」
カルティナの推測に対してメルメメルアは頷いてみせた後、周囲を見回してから、
「……ただ、少し気になる事があるのです。ちょっと奥へ行ってみるのです」
と、そう言葉を続ける。
「え? あ、ああ。店の状況を確認してくれという話だったから、私は別に問題ないとは思うが……何が気になるんだ?」
「――ラディウスさんが設置しているセキュリティガジェットの機能なのです」
首を傾げるカルティナに対し、メルメメルアはそんな風に答えるのだった――
元々は第7話の予定だったのですが、この次から第1話にすると中途半端感があるのと、冒頭部分も既に『聖木の館深奥』での話ではない事もあって、急遽ここから節を変えてみました。
冒頭が前の話から繋がる会話なので、ちょっとばかし変な感じにはなっていますが……
ま、まあ……そんなこんなでまた次回! 次の更新は平時通りの更新間隔となりまして……8月16日(火)を予定しています!




