第6話 聖木の館深奥。魔法の鎖。
――あの時、俺が攻撃を受けたのは、おそらく魔法で圧殺したはずのディーゲルの娘が復活したからだと推測出来る。
いくら他人の肉体と言えど、そんな事が可能なのか? という疑問があったが、既に肉体自体が改造されていたとしたら、それもあり得る。
エレンフィーネがさっき、地下で見たものについて語っていた時に、『液化、あるいはスライム化してしまったと思われる被検体』が、チラッと出てきたしな。
もし、ディーゲルの娘の肉体がスライム化していたとしたら、あの魔法では殺せていない。すぐに再生して俺を攻撃する事が可能だ。
と、そんな思考を巡らせていたラディウスに対し、首を傾げながらエレンフィーネが問う。
「ラディ殿? どうかしたのか?」
ラディウスはその声に思考を中断し、
「いや……ちょっと『ひとつの可能性』が頭をよぎってな。開けた瞬間、襲いかかってくるかもしれないが、もしそうだった場合も、うっかり倒さないようにしてくれ」
と言って、カードリーダーにカード型ガジェットをかざし、慎重にドアを開く。
幸いというべきか、いきなり襲いかかってくるような事はなかった。
だが、その代わりというべきか、以前ディーゲルの館で見た少女――ディーゲルの娘は、どことなく以前見た事のある魔法の鎖によって拘束されていた。
ラディウスは、もしやと思いつつ解析を実行。
――やはり、か……。この魔法の鎖……グロース・インヒビションの術式の一部が使われている……
ここに来て面倒な代物が出てきたものだ。
いや……さっき考えた『可能性』が『正解』であったとするならば、物理的な物での拘束は難しいだろうから、魔法の鎖の類が使われるのは当然と言えば当然な話か。
だが、それはつまり……
ラディウスが、額に手を当てながらそんな事を考えていると、
「これはまた、随分と頑丈に拘束されておりますね……」
と、テオドールが呟くように言った。
「これを解除するには認識票に組み込まれた魔法を使う必要があるんだが……残念ながら、私の認識票はあそこに放り込まれる際に剥奪されてしまったのだ。ラディ殿、どうにか出来るであろうか?」
エレンフィーネが言ってきたその言葉が耳に入ってきたラディウスは、反射的に問い返す。
「ちょっと待った。これは認識票に組み込まれた魔法があれば、解除出来るような代物なのか?」
「うむ、出来る。もしもの時はそうやって解除するように伝えられた故にな。……もしや、認識票を偽造するとでも?」
エレンフィーネのその問いに、腕を組みながら呟くように答えるラディウス。
「そうだな。偽造するかあるいは……認識票の魔法とやらをもとに、解除する術式を生み出すか……だな」
――これを解除するという認識票に組み込まれた魔法……。その術式を解析すれば、グロース・インヒビションそのものの解除にも繋げられるんじゃないか……?
そんな風に考えたラディウスは、早速向こう側の世界へと飛び、
「セシリア、何でも良いから――といっても、傷とか破損とかのないものの方が助かるが――兵士の認識票を取ってくる事って出来るか?」
と、セシリアに対して告げた。
「え? あ、うん、そのくらいならすぐだよ。ちょっと待ってて」
その直後、ラディウスの視界がディーゲルの娘の前へと切り替わる。
ラディウスは今の内に……と考え、対応に少し時間がかかる事をエレンフィーネとテオドールに告げた。もっとも、どちらかと言うとテオドール宛ではあるが。
そして、それを告げ終えた辺りで、再び向こう側の世界へ切り替わる。
「う、ううん……。なんというか、こう……短時間で行き来すると、視界……というか、目に入ってくる景色が切り替わりすぎて、ちょっと頭が混乱するわね……」
「あ、ああ、たしかにそうだな……すまん。だが……こればかりは連続的な転移をしようとすると、避けて通れない問題だし、慣れる以外にはどうしようもないな……」
額を抑えながら言ってくるルーナに対し、ラディウスはすまなそうな表情で、そんな風に答えるのだった。
妖姫と遭遇したり、ディーゲルの娘(偽)にやられたりしてから、もうかなり経ちますね……
ようやくあの時の伏線回収へと、話が動き出せるようになりました。
というか……間がここまで長くなるのは、完全に想定でした……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、8月13日(土)を予定しています!
 




