第4話 早い再会と説明。伝えるは砦の出来事。
「クカカカカッ、まさかあのバカ息子――王立魔導研究所の誘いを蹴るとはのぅ。なかなか面白い事をしよるわい。うむうむ、気に入ったぞい! おぬしには必要な物を全て安く売ってやろうのぅ!」
ひとしきり笑い終えたシェラが、上機嫌でラディウスに対しそんな風に告げる。
「え、えーっと……そ、それはどうもありがとうございます……。色々と素材と器材が欲しいと思っていたので」
そうシェラに対して返した所で、カルティナが首を傾げ、
「ん? 素材に器材……ですか? それはつまり……お客様はこの町で魔工屋を始めるか、魔導研究のために工房を構えるおつもり……だったりするのですか?」
と、ラディウスに問う。
「ああ、よく分かったな。魔工屋を始めるつもりでいるんだ。数日後にそれに適した物件が手に入る予定だから準備――というわけでもないが、とりあえずいくつかのガジェットを作ろうと思って、こうして素材と器材――ガジェットや、それを作るのに必要となる器具の材料を調達しに来たってわけだ」
「ガジェットというのは、そう簡単に作れるものなのですか……?」
「簡単ではないが、難しくもないな」
ラディウスがカルティナの問いかけに対しそう答えると、シェラが頷き、言う。
「そうじゃな……簡単ではないものの、改造よりは難易度が低いとあのバカ息子は言っておったから、それなりの魔工士であれば可能じゃろうよ。……まあ、古の時代に作られたガジェットに比べると、大分劣るがの」
「ふむ……なるほど」
カルティナはそう呟くと、ラディウスの方を見て問いかける。
「――お客様、唐突かつ不躾な質問をさせていただきたいのですが……構わないでしょうか?」
「ん? 質問? 別に構わないぞ」
「では……その、記憶を復元する魔法を有するガジェット、あるいはそれに類するような物……というのは、作れたりしないものでしょうか?」
ラディウスはカルティナの問いかけに対し、こめかみに人さし指を当ててしばし考えを巡らせた後、
「……さすがにそんなピンポイントな効果を持つ魔法なんてのは聞いた事がないからなぁ……構築しようにも取っ掛かりがない。複数の魔法からそれに近い物を組み合わせて、再構築すれば作れるかもしれないが……何の魔法のどの要素をどう組み合わせればいいのか、今の俺じゃ、皆目見当がつかないな」
と答えて、両手を広げながら首を横に振った。
「そうですか……」
カルティナは残念そうな表情で、うつむきがちにそう言うと、一呼吸置いてから改めて問いかける。
「あの……でしたら、ガジェットの話で逸れてしまいましたが、私の過去について知っている事を教えていただけませんか?」
「そう言えばそんな話だったな。……と言われても、俺も古馴染みとかそういうわけじゃないから、教えられる事は少ないぞ。――まず聞きたいんだが、ガルディア砦という場所を知っているか?」
「ガルディア砦……? どこかで聞いた覚えが……」
ラディウスの問いに首を捻って考えるカルティナ。
「このアーヴァスタス王国と北のセヴェンカーム王国との国境付近にある古い砦じゃな。その立地から、今では国境検問所として使われておるのぅ」
「あっ! そうですそうです! そういえば私は、その国境検問所の近くの道端で倒れていたんでした!」
シェラの説明を聞き、その事を思い出したカルティナが手を打つ。
――あの砦は今から20年後に、有事の際の橋頭堡――という名目で、北への侵略を見据えた前線基地――として機能するよう、大幅な拡張工事が行われる。
だからあの時俺のいた場所が、この時代にはまだ道だった可能性は十分にありえる。
つまり……カルティナの方は俺と違って、時間の移動はしたが、場所――空間の移動はほぼなかったという事だな……。やはり、この時代にはまだ産まれてすらいない存在だから……なのだろうか……?
ラディウスはそんな事を考えながら、カルティナに向かって告げる。
「……そのガルディア砦で、俺はカルティナと出会ったんだよ」
「え? そうだったんですか?」
「ああ」
そう答えた所でラディウスは、この先どう話すべきか迷い、考え込む。
――真実を伝えるのが、記憶を取り戻すキッカケとしては一番良いような気はするが……俺を殺そうとしていたなんて事、一体全体どうやって伝えればいいんだ……?
ラディウスがしばらく頭を悩ませていると、無言のまま悩むその姿に対して疑問を懐いたカルティナが問いかける。
「お客さん? どうかしましたか?」
「いや……どう伝えたものかと思ってな。まあ……いいか。そのまま話そう」
ラディウスはそう前置きするように言ってから、ややこしくなるので時を遡った部分については省いて、
「あの場所で、俺はカルティナのちょっとした勘違いで殺されかけてな。いやぁ、あれはなかなかやばかった……。まあ、なんとか逃げられたけどな、はっはっは」
と、そんな風に説明し、肩をすくめながらあえて笑ってみせた。
もっとも、その笑いは下手な演技にしかみえないような代物だったが。
「はい? 私がお客様をころ…………。………うええええええええええっ!?」
少し呆けた後、心底驚いたと言わんばかりに叫ぶカルティナ。
「あたっ!?」
シェラがカルティナの頭を杖で叩き、一喝する。
「やかましいわい! 振動で物が落ちてきたらどうするんじゃ!」
「……す、すまない……シェラさん」
頭をさすりながら謝るカルティナ。
そのカルティナの姿を見ながら、振動で物が落ちてくる可能性がある方をどうにかした方がいいのではないか……と思うラディウスだったが、口にはしなかった。
割とどうでもいい解説コーナー!
ガルディア砦ですが、この時代には本作冒頭で語られているような壁はまだありません。
この頃はセヴェンカームとの関係は良好だった為、国境はあってないような物でした。




