第3話 聖木の館深奥。重度隔離棟の内部へ。
「む? もういいのか? 思ったよりも随分と簡素な魔法なのだな」
「そりゃそうだ。魔法の見た目が派手だったらバレるだろ? 術式を改良して意図的になるべく簡素に――透明かそれに近い状態になるよう、魔力の波動を調整しているんだよ」
「ふむ……。たしかにそう言われてみると得心のいく話だな。魔力の波動を調整というのが、いまいち良く分からないが……ま、そこはいいか」
エレンフィーネはラディウスの返答にそんな風に返しつつ、近くのセキュリティガジェットへと近づく。
しかし、ラディウスのガジェットによって機能が停止している――正確に言うと、魔法が封印されている――為、何も起きなかった。
「……本当にセキュリティガジェットが、うんともすんとも言わぬな……」
エレンフィーネがセキュリティガジェットの感知範囲の内外を行き来しながら、そんな事を言う。
「さすがはラディウス様ですね。見た所、かなりハイレベルなセキュリティガジェットのようですが、それをこうもあっさりと無力化なされてしまうとは……」
「まあ、大半のセキュリティガジェットは、感知や動作の根幹となっている術式そのものは割とシンプルですからね」
驚きと称賛の入り混じったテオドールの声に対して、ラディウスはそう答えながら思考を巡らせる。
――こっちの世界の最新セキュリティガジェットって、20年くらいしたら向こう側の世界でも登場するからな……
時を遡る前に解析した事があるんだよなぁ、実は。
しかし……なんでそのタイミングで、向こう側の世界にも登場したのだろうか……?
もしや、誰かがこっちの世界では時代遅れになったセキュリティガジェットを、向こう側の世界に持ち込んだ……とかなのか?
時を遡る前のあの世界では、ヴィンスレイドとかも――グランベイルを壊滅させてはいるが――普通にその頃まで生きているはずだし、そうであったとしてもおかしくはないが……
「シンプル……なのか? 私も軍事教練の一環として、セキュリティガジェットの術式構成についてある程度学んだが……シンプルとは到底思えなかったぞ……?」
腕を組んで首を傾げながら、そんな問いの言葉をラディウスへと投げかけるエレンフィーネ。
それを聞いたラディウスは、思考を中断し、
「――共通点を見つけ出せば、大した事はないぞ。気になるなら教えようか?」
と、そう返事をした。
「それは非常に興味深いな。是非、教えてくれないか」
「ああ、わかった。……だが、その前に――」
ラディウスがエレンフィーネの言葉に頷きそう言うと、エレンフィーネが言葉の続きを引き継ぐようにして、
「――ああ。片付けるべきものを、先に片付けねばなるまい」
と言って、『重度隔離棟』の入口へと顔を向ける。
「ええ、その通りでございますね。……入る前に、ガジェットではない類のトラップが仕掛けられていないか確認させていただきますので、少々お待ちください」
エレンフィーネに続く形でそう言って、『重度隔離棟』の入口へと歩を進めるテオドール。
そして、ひとしきり入口周辺を丹念にチェックした後、ラディウスや一緒にやってきたゼグナム解放戦線の者たちに対し、
「……ガジェットではない類のトラップは、特に仕掛けられていないようですね」
と言いつつ入口の扉を開け、『重度隔離棟』の中へと踏み入った。
「よし、俺たちも中に入るぞ」
ラディウスはそう告げるとともに、セキュリティガジェットの魔法を無効化……封印するガジェットを常駐させた状態にすると、先に中へ踏み入っていったテオドールを追う。
――床も壁も天井も全て金属製で、ドアはカードリーダー付き……か。これはまた他の場所以上に頑丈かつ厳重な作りだな。
中に入ったラディウスは、建物内の造りに対してそんな感想を抱きながら、テオドールを先頭にして慎重に『重度隔離棟』の中を進んで行った――
思ったよりも中に入るまでの会話(と、ラディウスの思考)が長くなってしまったので、一旦ここで区切りました。
結果的にほとんど進展していないのが気になりますが……
まあ……これ以上、行くと区切れそうな場所が結構先になってしまいそうなので……
といった所で、また次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、8月2日(火)を予定しています!




