第4話 エレンフィーネの話。鳴り響く音。
突然、耳に響いてきた大音量の悲鳴に驚き、仰け反るエレンフィーネ。
聴力が強化されている所に大音量で悲鳴が響いたのだ。驚くなという方が難しいというもので、仰け反る事自体は、致し方ないと言えなくもない。
だが、仰け反ったその拍子に、扉の取っ手を強く引いてしまったのが致命的であった。
鍵がかかっていた事もあり、扉が開く事はなかったものの、ガチャガチャン! という大きな金属音が鳴ってしまう。
――しまっ!
エレンフィーネは焦りのあまり、うっかり声を出しそうになるのをギリギリで抑える。
だが、抑えようが抑えまいが、もはや無意味であった。
「なに……だ!?」
中からこちらに向かってくぐもった怒声が響く。
エレンフィーネはいまいち聞き取れなかったものの、扉の外に自分がいる事を、中の人間に察知された事だけは理解した。
――まずい……! 急いで離れなくては……っ!
エレンフィーネは即座に脚力を高める身体強化魔法を発動。
一気に20フォーネ(約20メートル)の距離を移動し、右へと曲がる。
左――地上へと引き返す方の通路は、一本道すぎて危険だと考えたのだ。
それと同時に、扉の開く音がする。
「誰もいない? 風……かしら? 地上が嵐とかになると、たまにこの扉までガタガタ音がする時あるし」
「たしかに外は嵐のようだが……今の音は風ではないな。何の魔法を使ったのかまでは分からんが、ここで魔法が発動された痕跡がある。何者かがいたのは間違いない」
「姿が見えないとなると……隠蔽魔法……かしら?」
「……その可能性は高いな。看破の魔法を使って探ってみるか……。この部屋に置いてあったよな?」
「ええ。その魔法の組み込まれているガジェットなら、その棚にあるわよ」
聴力を高める魔法を発動したままだった為に、そんな男女の会話がエレンフィーネの耳にしっかりと届いた。
――身体強化魔法でダッシュしたとは思っていない……?
今の内に距離を離して、どこか隠れられる場所を探さないと……
そう考え、エレンフィーネは足音を立てないように慎重に、しかし早足で通路を進んでいく。
すると、少し進んだ所で唐突に天井の高い開けた場所へと出た。
そこは、左右の壁に沿って浅い水路があり、地下だというのに風が強い、そんな場所だった。
――この風の強さ……地上の風が入り込んでいる……のか?
そう思いながらエレンフィーネが天井を見回すと、所々に格子の嵌められている通気ダクトが見えた。
しかし、人が通れるような大きさではないのは一目瞭然である。
――さすがにあそこから脱出……というのは無理か。
格子を破壊するのがまず難しいし、仮に破壊出来たとしても狭すぎる……
……せめて、どこかに隠れられそうな場所は……
軍での訓練の賜物か、内心では大いに焦りつつも、冷静さを失う事のなかったエレンフィーネは、すぐに再び周囲を見回してみる。
すると、今度は入ってきた通路の真上――天井付近の壁に、大きな半円のくぼみがあり、そこに紋章のようなものが彫られているのが見えた。
――紋章だとは思うが、見た事のない紋章だ……
いや、それよりもあのくぼみ……それなりにスペースがある……。あそこを使えば、あるいは……
見た事のない紋章が気にならないわけではないが、今はそれよりもくぼみの方が重要だった。
エレンフィーネはひとつの可能性に掛けるべく、一度通路へ戻り、少し移動してから跳躍力を強化。
そして再び戻ってくると、大きく跳躍。
紋章の掘られたくぼみへ手と足を掛けて張り付く形になる。
――魔法で身体能力を強化しているとはいえ、あまり長くは維持出来なさそうだ……
上手く素通りしてくれればいいのだが……
エレンフィーネがそう思った直後、先程の者たちの声が聞こえてきた――
さすがに通気ダクトに潜り込んだりはしません……(そのうち、そういうシーンがあるかもしれませんが……)
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は平時通りとなりまして……7月14日(木)を予定しています!




