第3話 早い再会と復元。そして説明する。
ラディウスは、カルティナが記憶を失った『原因』について思考を巡らせる。
――うん? まてよ……?
カルティナって、この時代にはまだ産まれてすらいないよなぁ、確実に。
となると、俺とカルティナとの大きな違いは……この時代に肉体があるかないか……か。
過去に戻った魂が入る器がなかったために、記憶が失われた? だが、そうするとどうやって肉体が生成されたんだ?
段々と深みに嵌っていき、頭の中が混乱してきた所で、
「すいません、おまたせしました!」
というカルティナの声が聞こえてきた。
ラディウスは思考を中断し、声のした方を見る。
と、そこには服を着替え終えたカルティナが立っていた。
「随分早いな……。でも、ボタンを掛け違えているぞ」
「あ!」
ラディウスの指摘を受けたカルティナが、慌ててボタンを掛け直……そうとして、ボタンがちぎれ、胸元が大きく開いた。
「はうあっ!?」
カルティナはどうにかしようとして、更に別のボタンを引きちぎってしまう。
それどころか、その拍子に何故か他のボタンまで弾け飛んだ。災難体質のせいだろうか。
――いやいや、なんでピンポイントに胸元のまわりだけボタンが取れるんだよ!? デカイせいか!? デカイせいなのか!? ……ってそうじゃない!
ラディウスは、心の中で自分にツッコミを入れつつ、これ以上放っておくとまずい事になりそうだと思い、即座にレストア・改を使った。
「ん? なんだ? ボタンが復元された……ぞ?」
唐突に復元されたボタンにカルティナは困惑し、自身の手にあるボタンとブラウスに付いているボタンを交互に見ながら、そんな事を呟くように言う。
「俺が魔法で直した。……っと、そうだ。ついでに壊れたカウンターと棚も直してしまおう」
ラディウスはそう言って再びレストア・改を使い、修復する。
「す、すごい……」
「おぬし、とんでもない魔法の使えるガジェットを持っておるのぅ……。名称の後ろに『カイ』と付くような魔法は、長年生きてきて、一度も聞いた事がないわい」
カルティナとシェラが驚きながら、そう口にする。
「あ、いえ、これは俺が個人的にレストアの魔法を改造した物なんですよ。なので、とりあえず『改』と後ろに付けている感じですね」
そんな風にラディウスが説明すると、カルティナとシェラが顔を見合わせる。
「……シェラさん、魔法というものは改造出来るものだったのか?」
「……わしは魔工士ではないから詳しくは知らぬが、出来なくはないはずじゃ。実際、ウチのバカ息子はその研究をしておるしのぅ。じゃが、複雑ゆえに強化するつもりが逆に弱体化するという事もある……というより、そうなる方が多いそうじゃ」
――ん? 魔法の改造を研究している?
ラディウスはその部分に引っ掛かりを覚え、シェラに向かって問う。
「あの……その魔法の改造を研究している人――シェラさんの息子……という方は、もしかして『ライナス』という名前だったりしますか?」
「ふむ、その通りじゃが……。なんじゃ? あのバカ息子と知り合いなのかえ?」
「いえ、実はそのライナスさんから、研究所に来ないかと言われまして……」
「なるほど、そうじゃったのか。じゃが……それならなぜにこの町におるのじゃ?」
「あー、えーっと……王都まで行ったには行ったのですが、直前で、やはり俺には研究とかそういうのは向いていないなーと思いなおしまして、そのまま何も言わずに去ってしまいました」
どう言う風に説明するべきか迷ったが、結局、ルーナたちにしたのと似たような感じの説明するラディウス。
それに対してシェラは、しばし目を瞬かせた後、実に愉快そうな表情で笑い始めたのだった。
カルティナの記憶が消えた原因が何なのか判明するのは、おそらくかなり先になります……