第9話 聖木の館攻略戦。不気味な躯。
「……そう言えば、地下に近づくと死ぬとかなんとか……」
逃げていく兵士たちの声の中に、そんな発言があった事を思い出しながら呟くセシリア。
「……何かのトラップが仕掛けられてる……?」
ラディウスが以前話していた『トラップガジェット』の事を思い出したセシリアは、それ以上踏み込むのを止め、その場で敵兵の死体を観察してみる事にする。
――この苦悶に満ちた顔と、身体の曲がり具合……のたうち回って死んだんだと思うけど、そうなると……考えられるのは毒殺だけど……?
でも……諜報員になった時に教えられた『毒の場合ののたうち回り方』とは違うし……
……あれ? この銀髪の女性の肌が露出している所……どす黒い?
皮膚に浮き出ているような感じだし、内側から染み出してきたのかなぁ?
……って、うへ……良く見ると骨が内側から飛び出してるよ……。しかも、骨も黒いし……
うーん……これ、毒じゃなくって、何らかの魔法によるものな気がするなぁ……
そこまで確認した所で、セシリアは魔法ならばラディウスに伝えるのが一番だと結論づけ、向こう側への世界へと移動した。
「ん? 何かあったのか?」
「城門前は順調よ。あ、敵の一部が後退していったから注意が必要かもしれないわ」
「ルーナさん、『城門』ではありませんです……。まあ、似たような感じではありますですが」
ラディウスの問いかけに対し、ルーナとカチュアがそんな事を言ってくる。
「あ、用があるのは私」
セシリアはそう言って、今しがた『保安棟』と呼ばれる建物の地下へと続く階段で見た光景について皆に話す。
「……なるほど、トラップガジェットの可能性か……。ちょっと確認してみた方がいいな。少し待ってくれ」
セシリアの話を聞いたラディウスは、そんな風に告げると、その場でガジェットを作り始める。
そして数分もしない内に、長方形の中心に半円のレンズのようなものが取り付けられた――まるで使い捨てカメラのような形状の――ガジェットが完成。
「セシリア、ちょっとこのガジェットのレンズ――ああ、この丸いガラスの事な――をその死体が転がっている方に向けて、上部のボタンを押してくれ。そうすると、『データ解析中』っていう文字が浮かぶから、そのまま待機して『コンプリート』に変わったら戻ってきてくれないか?」
と言ってセシリアにそれを渡すラディウス。
「了解!」
セシリアは短くそう返すと、すぐに元の場所へと戻り、死体の方へとレンズを向け、上部のボタンを押した。
と、ボタンの上部に『データ解析中』という文字が浮かんだ。
――なんだか良くわからないけど……魔法を解析してる?
まあ……とりあえず、このまま待機っと。
……正直、あんまり待機していたくない場所ではあるけどね……
セシリアがそんな事を考えつつしばらく待っていると、『データ解析中』の文字が『コンプリート』へと変化した。
「これでいいんだよね」
そう誰にともなく呟くと、再び向こう側の世界へと移動するセシリア。
「コンプリートって表示されたから戻ってきたよ!」
「お、ありがとう。んじゃ早速確認してみるとするか」
ラディウスはセシリアからガジェットを受け取ると、カチカチとボタンを2回連続で押した。
すると、先程までセシリアが見ていた光景が、ホログラムとなって中空に映し出される。
「う、うわぁ……。えっぐい光景ねぇ……」
「皮膚や骨が黒く変色しているのです……。不気味すぎるのです……」
ルーナとメルメメルアが、そんな風に言い、それにカチュアが、
「毒か何かですかね? です。まだこの世界が『古の時代』だった頃に、毒で殺された人が、こんな風になった気がしますです」
なんて言葉を続けた。
「……そんな事もあったですね……。たしかにアレに似てはいるですが……アレは紫色だったような気がするです」
当時の事を思い出しながら……といった感じでそう口にするメルメメルア。
すると、ラディウスがそれに対して頷き、
「そうだな。これは毒ではなく……トリガー式の魔法――いや、こういった方がわかりやすいか。……これは『呪物の魔法』によるものだ」
と、皆に告げた。
久しぶりに『呪物』の登場となりました。
まあ、この類の物は『呪物』の十八番みたいな所がありますからね……
といった所でまた次回!
次の更新は、平時通りの間隔となりまして、6月11日(土)を予定しています!
……ただ、現時点では不確定ですが、その次がまた1日多く空くかもしれません……




