第2話 早い再会と記憶。災難体質と巻き込まれた者。
――怪我はなさそうだな……。まあもっとも、その代わり全身粉まみれだけど……
うーん……破けているわけでも壊れているわけでもないから、レストアは何の意味もないしなぁ……。他に良い魔法も……ないな。
この粉まみれは、今の俺の手持ちの魔法じゃどうにも出来そうにないが、どうしたもんか。
と、ラディウスがそんな事を考えていると、
「騒々しいのぅ……。いったいどうしたのじゃ……」
という声と共に、カウンターの奥にある暖簾をくぐって老婆が姿を見せる。
「………………」
そして絶句。
しばし硬直した後、ゆっくりと視線を動かして店内の惨状を確認する老婆。
そして、なにやら納得したのか首を縦に2回振った後、ラディウスの方を見て、
「……あー、これはあれかの? カウンターと……粉末の類を積んであった棚が壊れた感じかの?」
と、問いかけた。
「え、ええ……まあ、そんな感じです」
「ま、どちらも大分脆くなっておったからのぅ……。とりあえず、おぬしに被害がなくてよかったわい」
ラディウスの返答にそう言ってくる老婆。
「もごもごもごー!」
麻袋に埋もれたカルティナが何かを口にする。
だが、麻袋の山のせいで何を言っているのかさっぱりだった。
「こまった娘じゃのぅ……」
そう言いながら麻袋をどけ始める老婆。
ラディウスはその様子を見て、
「あ、俺も手伝います!」
と、言った。
◆
「ぷはっ! ――お客様にシェラさん! 助けていただいて感謝いたします!」
どうにか麻袋の山をどかしたところで、跳ね起きながらカルティナが言ってくる。
「感謝している暇があったら、まずはその全身の粉をどうにかしてくるのじゃ。店の方はワシが片付けと店番をしておくゆえ、心配するでないぞ」
そう老婆――シェラが言うと、
「いや、待ってくれ、シェラさん! このお客様が私の過去を知っているかもしれないのだっ! 帰られてしまう前にせめて二言三言で構わないから、話を……! 話をさせてくれ!」
と、そう言葉を返すカルティナ。
「……戻ってくるまでここらで待っているから、とりあえずその粉まみれな状況をどうにかしてきた方がいいぞ……」
呆れ気味にラディウスが言うと、シェラは、
「ほれ、お客様もこう言っておるし、さっさと行くがよい」
と言って、追い出すようにカルティナの背を押した。物理的に。
「も、申し訳ありません、お客様っ! ちょ、ちょっと待っていてくださいっ!」
カルティナはそう言って奥へと走っていった。
が、その直後、「あいたぁぁっ!」という悲鳴が聞こえてくる。
「……はぁ、やれやれじゃな。……あの娘――カルティナは、慌てたり焦ったりすると、どういうわけか必ず何らかの災難に見舞われるんじゃよ……。もう少し落ち着いて行動すれば何も起きぬというのに……」
店の奥に顔を向けながら、ため息交じりにそう言って、首を横に振るシェラ。
――慌てたり焦ったりすると、災難に見舞われる……?
もしかしてあの時、カルティナが転倒したのは俺に攻撃が当たらずに焦ったせい……なのか? そして、俺はそのカルティナの災難に巻き込まれた……という事だったりする……のか?
シェラの言葉を聞いたラディウスが、ふとそんな事を考える。
「どうかしたのかの?」
何やら考え込んでいるラディウスの事が気になったシェラが、粉の入っている麻袋を拾い上げながら、そう問いかける。
「あ、いえ、前にその災難に巻き込まれたというか、酷い目にあったなぁ……と思いまして」
ラディウスはシェラに対してそう答え、肩をすくめて見せた後、一呼吸置いてから
気になっていた事を問う。
「……ところで、カルティナですけど……もしかして、過去の記憶を失っていたりするのですか?」
問われたシェラは、しばしの無言の後、
「……うむ、その通りじゃ」
と、重々しい口調でラディウスに告げた。
その言葉を聞き、ラディウスは思考を巡らせる。
――やっぱりそうだったか……。だが、俺は記憶を維持したまま過去へと戻ってきたのに対し、カルティナは記憶を失った。果たしてこの差は何なのか? 何が原因なのだろうか?
タイトルの巻き込まれた者とは、ラディウスの事です。
まあもっとも、ラディウスはカルティナのその災難体質に巻き込まれた事で、こうして過去へと戻って来られたので、一概に災難が起きる……とは言い切れないのかも……?