第1話 聖木の館攻略戦。魔法という名の物理。
「見えてきましたです! 聖木の館の正門ですです!」
カチュアがそう告げて進む先を指さす。
「……療養施設の門じゃないわよね……アレ」
カチュアの隣に座るルーナがそう告げると、車を運転するザイオンが、
「そうだな。帝国軍の重要拠点レベルだぜ、ありゃ」
と、呆れ気味に返した。
それは、3人の視線の先にある門……それは、3階建てのルーナの家――というか宿が、完全に隠れてしまう程の高さがあり、その全てが非常に頑丈そうな黒い金属で作られていたからだ。
「防衛部隊の姿が見えないのは、あの門を突破出来ると思っていないから……といった所かしらね?」
「ま、あれだけ頑丈な門があるなら、外に部隊を展開して待ち構える意味はねぇからな。中に籠もったまま攻撃する方が、圧倒的に楽だし、安全ってもんだ」
「逆を言えば、あの頑丈さが無意味だと見せつければ、外に出て来ざるを得なくなるって事よね」
ルーナはザイオンにそう返すと、自身のストレージから、騎士が馬上で使う円錐状の槍――ランスに似たガジェットを取り出し、車の窓を開けた。
「なんか、一昔前の騎馬隊が使いそうなシロモンだな? どんな魔法が組み込まれてるんだ?」
「ラディウスさんから受け取ったガジェットみたいに、強力な攻撃魔法が複数組み込まれているとか……でしょうか? です」
ザイオンとカチュアが、そのガジェットを見ながら、そんな疑問の声を口にする。
「実はこれ、組み込まれている魔法、ひとつだけなのよね。術式の効率を最大化させようとしたら、複数の魔法を組み込むのは無理だったわ。……もっとも、ラディなら平然と組み込んじゃう気もするけど」
なんて事を言いながら窓から顔を出すと、ガジェットを両手で持ち、円錐の先端を門の方へと向けるルーナ。
「さぁて……早速行くわよ! ――3……2……1……いっけぇぇぇぇぇっ!」
そう言い放った瞬間、円錐の部分が分離し、一直線に門の方へと向って回転しながら飛翔し始める。
「ぶ、分離しましたです!?」
想定外の動作をみせたガジェットに、カチュアは驚きつつも、飛翔する円錐を目で追い続ける。
そう、カチュアの『目』ではしっかりとそれを捉え続ける事が出来ていたのだ。
――飛翔するだけなんてのはありえませんですし、何かに接触すると爆発するとか、そういう自動起動するタイプの術式でしょうか……? です。
と、思いながら見続けていると……とんでもない事が起きた。
……門に到達する直前、唐突に飛翔する円錐が、門とほぼ同じくらいはあろうかという程の巨大な物へと変化したのだ。
「……え?」
「は?」
巨大化した事で、カチュアのような特殊な目ではないザイオンの目でも、それがしっかりと見えた。
故に、素っ頓狂な声が口から自然と出てしまう。
そしてその直後……
ズガァン! というけたたましい音と共に、門に大穴が開く。
ただし、それは最早破壊されたと言っても過言ではない程の……だ。
そんなとんでもない光景を見ながら、カチュアとザイオンが驚愕、困惑、そして呆れの入り混じった表情で呟く。
というか、呟かざるを得なかった。
「ぶ、物理的にぶち破るとは想定外すぎるぜ……」
「こ、これは魔法と呼んでいいものなのでしょうか……です」
と。
……要するにロケットなドリルです。
飛翔させたり巨大化させたりといった部分は、正しく(?)『魔法』なのですが、ぶつけているものは魔力ではなく物理という……まさしく、魔法(物理)な代物です。
という所でまた次回!
そして、次の更新ですが……GW明け直後で色々と積み上がっている可能性が高い状況の為、申し訳ありませんが、いつもより1日多く空きまして……5月13日(金)を予定しています……!




