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第1話 早い再会の時。月下の梟にて。

「そうか、マリエルは明日帰ってくるのか。マークスも助かってよかったぜ」

 ルーナの話を聞き終えたディックが破顔してそう言って喜ぶ。

 そして、ラディウスの方を見て感嘆の声を上げた。

「――にしても、ラディウスはすげぇな。マリエルですらどうにも出来なかった物をあっさりどうにかしちまうなんてよ」


「まあ、今回はガジェット――呪物が引き起こしていた物だったので、どうにかなった感じですけどね。実際にあれを解除したのは俺ではなくてルーナですし」

 そうラディウスが言うと、ディックは、

「それ本当だったのか!」

 なんて言って驚く。

 

「え!? さっきの話、信じてなかったの!?」

 話した内容を信じていなかった事を知り、ルーナが怒気を含んだ声を上げる。


「い、いやぁまさか、勉強嫌いのお前がそんな事をするなんて思わなかったもんでよ……」

「うぐ……っ。ひ、否定は出来ないわね……。ま、まあ私も気づいたのよ、学べる物は学んで置かないと、後で酷い事になると」

 ディックの言葉に怒気が増す……かと思いきや、逆に一瞬で怒りが霧散したかのように、意気消沈して言葉を返すルーナ。

 

「お、おう。なんだかわかんねぇが、気づいたんならいいんじゃねぇか?」

 突然の変わりように困惑しながらディックが言う。

 

 ――う、うーん。なんだかルーナが遠い目をしているな……。そんなにディズ・スパイダーに服を溶かされた事を気にしているのか……?

 そんな事を思ったラディウスだったが、あえて何も言わずにおいた。

 

 そして、ラディウスは少し遅くなった昼食を摂った後、今後必要になるであろうガジェットを作る為には、王都を出る前に買った素材だけでは足りないと考え、ルーナに素材が売られている場所を聞くと、『月下の梟』という名の雑貨屋を教えられた。


 ルーナは夜の酒場の営業に向けた準備があるという事で、ひとりで街へと繰り出したラディウス。

 教えられた通りに歩いていき、『月下の梟』という看板のある店の前で足を止める。


「ここか」

 と呟きながら、その店の外観を見渡すラディウス。

 

 ――随分と古そうな建物だな……大きな台風が来たらヤバそうだ。もっとも、この辺りは地形の関係で滅多に来ないけど。


 なんて事を思いながら、

「ま、古いという事は、それだけ老舗だと言えなくもないしな」

 と、呟いて店のドアを開けた。


 すると「いらっしゃいませー」という女性の声が店の奥から聞こえてきた。

 その声にラディウスは、どこかで聞いたような気がして、声のした方へと顔を向ける。

 と、そこには木製のカウンターがあり、店員と思しき声の主――長い金髪と赤眼を持つ女性の姿があった。


「……は!?」

 ラディウスは女性の姿をその目で捉えた瞬間、驚きの声を上げて仰け反る。

 なぜなら、それは時を遡る前に、自分を殺した――正確に言えば、ギャグのような死に方をする原因となった――女性士官、カルティナだったからだ。

 

「カ、カルティナ!? ど、どうしてここに?」

 という、もっともな疑問の声が、動揺と共に口をついて出るラディウス。

 

「どうして……ですか? えーっと……あれ? そもそも、お客様とは初対面です……よね? どうして私の名前を……?」

 頬に人さし指を当てながら不思議そうにそう言って首をかしげるカルティナ。


「……え?」

「……あ! も、もしかして、私の過去を知っていたりします!?」

 カルティナがバンッとカウンターに手を付き、身を乗り出してくる。


 と、その直後、バキッという音がした。

 

「え?」

 今度はカルティナがそんな声を上げる。


 と、その直後、バキバキッという音がした。


 そして、続けてバキンッという決定的な音が響き、カウンターが折れた。

 元々脆くなっていた所に勢い良く力を掛けたのがいけなかったのだ。

 乗り出している身を支えるものがなくなった事で、バランスを崩し、前のめりに倒れそうになるカルティナ。


「ひああっ!?」

 という素っ頓狂な声と共になんとか倒れるのを防ごうと手を伸ばす。

 

 しかし、カルティナが手を伸ばした先は脆くなっていた棚だった!

 

 体勢は立て直したものの、勢いよく掴んだ事で棚に急激に重圧がかかり、その負荷に耐えきれず、ベキッという音と共に棚が崩壊。

 上に積まれていた何かが詰まった麻袋が転がり落ちてくる。

 

「わ、わきゃー!?」

 悲鳴と共にドサドサと落ちてくる麻袋の雪崩に飲み込まれ、カルティナは壊れたカウンターの裏へと消えていった。

 そして、更にそこへトドメとばかりに上にギリギリ引っ掛かっていた最後の麻袋が落下。

 カルティナのややくぐもった声が聞こえてくる。

「うぎゅうっ!?」


「お、おーい、大丈夫かー? ……って、なんかこれ、昨日も言ったな。セシリアにだけど」

 ラディウスはそんな事を言いながら近寄り、カウンターの裏を覗き込んでみる。

 と、そこには多数の麻袋に押し潰され、色とりどりの粉に塗れたカルティナの姿があったのだった……

というわけで、カルティナの再登場です。


そして次々に壊れていく店内……

ここの所、ちょっとだけ擬音表現を連続させてみました。

(もっとも、擬音だけにならない様にはしていますが)

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