第8話 街へ赴いて。装甲車とドールガジェット。
「X7178 Y10112ですね。ちょっとお待ちを」
リゼリッタがメルメメルアから聞いた座標を復唱しつつ、地図帳を自身のストレージから取り出し、テーブルに広げる。
そして開いたページの地図を指でなぞりながら、
「――聖木の館から北に約10カルフォーネといった所でしょうか。そうですね……そこですと、全員を移動させるには半日以上かかりますが、強襲用の装甲車を使えば、半数未満の人数になってしまうものの、2時間以内には移動を完了出来るかと」
と、そんな風に告げた。
「ふむ、なるほどな……。なら先遣隊として、送れるだけの数を先行して送り込むよう伝えてくれ」
「はい、委細承知しました」
アルフォンスに対し、そう答えて頭を下げるリゼリッタ。
そして、一度向こう側の世界へ行き、必要事項を伝達して再び戻ってくる。
当然といえば当然だが、ラディウスやメルメメルアにとっては、その場にずっといるようにしか見えない。
「装甲車なんてあんのか……」
という少し驚いた表情でのラディウスの呟きに、アルフォンスは装甲車そのものが存在している事に対する驚きではなく、アルフォンスたちが所持している事に対する驚きだと思い、それについて説明する。
「ああ。前に正規軍から掠め取った奴と、ブラックマーケットに横流しされた1世代前の奴があるぜ。今回使うのは……」
「鹵獲した新型です。旧型よりも若干耐久面が劣るものの、それを補って余りあるスピードが出せますから」
アルフォンスの説明を引き継ぐ形でリゼリッタがそう告げる。
「ラディウスたちは普通の車なんだよな? 装甲車を盾にする形で乗り込むのが良いと思うぞ」
「なるほど……。一応、あの車の周囲にドールガジェットのビーム照射にも耐えられる障壁を展開してはいるが……たしかにそれだけでは心もとないな」
アルフォンスの言葉に、ラディウスは装甲車なのだから、あの障壁よりも頑丈なのだろうと考え、そう返事をしたのだが……実は、装甲車にそこまでの耐久力はなかったりする。
アルフォンスたちは、そのラディウスの発言に思考が追いつかず、
「それ、もしかしてレゾナンスタワーで使ったガジェットです?」
「ああそうだ。あの時に用意したガジェットの予備がまだ未使用のままだったからな。折角だから使っておいたんだ」
というメルメメルアとラディウスのやり取りが終わった所でようやく、
「……ちょっとまて、そのドールガジェットはどのレベルの……だ?」
と、そんな感じで、アルフォンスが問いの言葉を投げかけるのが精一杯だったくらいである。
「うーん……。どのレベルと問われても、そこまでは詳しいわけじゃないから何とも言えないが……とりあえずあの時襲ってきたのは、キリングアイドルとスナイプフィギュアだな」
「それ、1機でも戦場に投入されたら、複数の部隊が一瞬で壊滅するレベルの戦闘用ドールガジェットじゃねぇかよ!?」
アルフォンスは、以前実際に戦場で見た『ソレ』を思い出しながら、叫ぶ。
というか、叫ばずにはいられなかった。
「2機も投入されたら、前線があっという間に崩壊する程ですね……」
「あの化け物のビームを防ぐとか意味わからないのだわ……。ある意味、さすがラディなのだわ……」
アルフォンスと同じように、『ソレ』の脅威を認識しているリゼリッタとクレリテが、身震いしながらそんな風に言う。
「ちなみに、ラディウスさんはそれをあっさりと倒したのです」
「――意味不明……というか、理解不能すぎなのだわ……。もう一度、さすがラディなのだわ……と言うくらいしか出来ないのだわ」
何故かちょっと自慢げな表情で告げたメルメメルアに対し、クレリテはやれやれと言わんばかりの表情で首を横に振るしかなかった――
レゾナンスタワーでは、割とあっさり倒していますが、実はとても強かったドールガジェットです。
とまあそんな所でまた次回! 次はいつもどおりの更新間隔となりまして……3月2日(水)を予定しています!
……が、その次は、もしかしたらまた1日多く間が空くかもしれません……




