第2話 宿屋の娘は考える。そして混乱する。
「……それはそうと、常駐魔法というのが何なのかは理解したけど、なんでマリスディテクターを使ったら見えるようになったの? 今の照明の常駐魔法は使わなくても見えたわよね?」
先程の照明魔法を思い出しながら、ラディウスに尋ねるルーナ。
「それは簡単な話だ。常駐魔法には不可視の物があるんだよ」
「え? そうなの? でも、なんで不可視の物なんてあるの?」
問われたラディウスは、顎に手を当て「んー」と言いながら、どう説明しようかとしばし考えた後、
「例えば……近づいてきた者に対して電撃でショックを与える障壁を、自身の周囲に展開する常駐魔法なんかは、可視だとバチバチしているのが見えて鬱陶しいし、敵にも使っているのがバレバレだろ?」
と、そんな風に言った。
「あー、なるほど……。言われてみるとたしかに鬱陶しいわね」
ルーナは、バチバチと放電する障壁が自分の周りに常にある光景を想像しながら、言葉を返す。
「そういう事だ。で……だ、マリスディテクターはさっき屋敷でも説明した通り、人からみて害悪な物や、脅威となる物を探知するという魔法なわけだが……この時、それが使用者にわかるよう可視化する、という機能――効果もあるんだよ」
「んんー? って事はつまり……シャドウコラプスは不可視の常駐魔法だったけど、マリスディテクターを使うと、使った人だけ可視……見えるようになる……?」
聞いて理解した内容を、額に手を当てて呟くように言うルーナに対し、
「ああ、そういう事だ」
と答えながら、本当にルーナは魔法――魔工学への理解が早いな……と思うラディウス。
……そんな感じで魔法についての会話をしているうちに、町へと続く石畳の道まで戻ってきたふたり。
――たしか、あっちへ行くと伯爵の屋敷だったな……。うーん、ヴィンスレイド伯爵……か。
やはり、何をしようとしているのかが気になるな……
ラディウスは足を止め、心の中で呟く。
「急に立ち止まったりして、どうかしたの? ――あ、もしかして、伯爵様のお屋敷が気になるとか?」
「あー、まあそんな所だ。で、どうせここまで来たんだし、ちょっとだけ伯爵の屋敷ってのを見てみたいんだが……どうだろうか?」
伯爵の屋敷がある方に顔を向けながら問いかけてきたルーナにそう返すラディウス。
それに対しルーナは、「うーん……そうねぇ……」と言いながら腕を組んで考え込む。
――マークスおじさんの腕輪の件を考えると、近づくのがちょっと怖いけど……まあ、もし何かあっても、ラディがいるし大丈夫よね。
ルーナはそう心の中で結論を出し、続きの言葉を紡ぐ。
「……敷地の中に入るのはさすがにまずいから、外から眺めるくらいしか出来ないと思うけど……とりあえず、近くまで行ってみる?」
「なに、俺も中に入れるとは思っていないし、それで十分だ」
そう答え、ルーナと共に伯爵の屋敷の方へと歩き出す。
すると、5分もしないうちに、道が大きくカーブしているのが見えてきた。
「あのカーブの先が登り坂になっていて、そこを登った先が伯爵様のお屋敷よ」
ルーナが道の先を指さしながらそう言ってくる。
「なるほど、少し高い場所にあるのか。……とはいえ、高い木が多くて、ここからだとさすがに見えないな」
ラディウスは森の方を見ながらそんな風に言葉を返した後、道の脇にキラッと光る物を見つけた。
「ん?」
ラディウスはキラッと光った方をじっと見つめた後、反対側の道の脇に視線を向け、
「うげっ!」
と、やばいものを見たと言わんばかりの表情をした。
そして、即座に素早く懐中時計のような見た目のガジェットを取り出し言い放つ。
「リインフォース・改!」
「ど――ふぇ!?」
ルーナは、ラディウスにどうしたのかと問おうとした瞬間、唐突に抱きかかえられ、素っ頓狂な声を上げた。
――え? なんで私、抱きかかえられてるの? え? っていうか、これって、えーっと、たしか、そう! そうだわ! お姫様抱っことかいう奴よ! いやいやそうじゃないわよ! そこじゃないわよ! えーあー、そうよ! なんでこうなったのかしら!?
ルーナがそんな感じで盛大に混乱している間に、ラディウスはルーナを抱きかかえたまま、もの凄い速度で森の中へと飛び込み、そのまま近くの草むらへと身を沈めたのだった――
唐突に何かが起きたようで……?