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第2話 転生者は行き先を決める。行き先は……

 王都から立ち去る事を決めたラディウスは、その前に……という事で、ガジェット制作用の器具や素材を購入しようと商業区へとやって来た。

 

 ――よし、これだけ買っておけば十分だろう。あとは……

 ラディウスはそう心の中で呟きながら、店を出た所でふと周囲を見回す。

 と、大通りの中心にある、ドーム状の透き通った屋根――ガラスに似た材質の物だが、古代文明期に造られた遺物であり、実際には何なのか判明していない――付きの広場で、多くの行商人たちが店を開いているのが、視線の先に見えた。

 

 ――そう言えばあの場所……『古の蒼き穹窿(きゅうりゅう)広場』は、王都にやってきた行商人用のために開放されているんだったな。なにか面白い物があるかもしれないし、ちょっと覗いていってみるか。

 そう考えたラディウスは、古の蒼き穹窿(きゅうりゅう)広場ヘと足を向けた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ――そこまで面白い物はなかったな。

 とはいえ、いくつか役立ちそうな魔物の素材が手に入ったし、覗いて損はなかったけど。

 一通り物色し終えたラディウスは、そんな風に思いながら古の蒼き穹窿(きゅうりゅう)広場を後にしようとした所で、店の手伝いをしているらしい少女の姿が目に入る。

 

 その姿に、ラディウスは定期的に村を訪れていた()の行商人とその娘の事を思い出し、なんだか懐かしい気分になった。


 ――数年前から村に来なくなってしまったが……何かあったのだろうか?

 噂ではどこかの町に店を構えたから来なくなった、とかそんな風な感じだったが……

 そういえば、あのツンデレ少女――セシリアには、何度か色々とガジェットの試作品を渡していたっけなぁ……今頃どうしているのやら。

 

 そんな事を思いながら、売られている商品を見るラディウス。

 どうやら、袋詰されたグランベイル産フィルカーナ糖という代物が商品のようだ。

 

 ――グランベイル産フィルカーナ糖……。地球のテンサイに似ている、フィルカーナという植物から作られた砂糖だな。

 まあもっとも、あくまで似ているだけであって、別物なんだよなぁ……完全に。

 なにしろ、簡単に絞れる上に、絞って出て来る汁を固めるだけで、真っ白い砂糖になるからな……あれ。地球の記憶を持つ俺からすると、わけがわからん。

 

 なんて事を考えていると、少女が床の荷物に躓くのが目に入る。

 少女と抱えていた積み上げられている袋がラディウスの方へと倒れ込んでくる。

 

「おっと!」

 即座に反応し、積み上げられていた袋と少女の両方を抱きとめるラディウス。

 

 ――身体の動きが軽いな。反応も早い。さすがは若いだけある。

 なんて事を思いつつ、少女に大丈夫かと問うラディウス。

 

「ふあぁっ!? だ、だ、大丈夫ですっ! あ、ありがとうございますです……っ! む、むしろ、ごめんなさいっ!」


 少女が顔を赤らめながらそう口にした直後、少女の父親である行商人が、慌てた様子でラディウスに対し謝罪してくる。

 それに対し、ラディウスは気にしないでくれと伝えながら、積まれた袋を床に置き、その一番上にあった袋を手に取った。

 

「あ、すいません、ついでというわけではないのですが……一袋売っていただけませんか?」

 と告げ、書かれている値段ピッタリの硬貨を差し出すラディウス。

 

「いえいえ、お代は受け取れません!」

 行商人に受け取りを拒否される。迷惑をかけたお詫びだと言う行商人。


「いや、それは……」

 そんなつもりではなかったラディウスは、更に硬貨を差し出そうとして……やめた。

 それは、お詫びと言っているのに拒否するというのもどうなのかと思ったからだ。


「では、ありがたくいただきます。――ところで、おふたりはグランベイルから来られたのですか?」

「正確に言うと、その近くにあるレマノーという名の村ですね。そこの名産品がフィルカーナなのですよ。普段はグランベイルの町にある食料品を扱うお店に卸しているのですが、たまにこうして宣伝を兼ねて、王都まで売りに来るのですよ」

「なるほど、そうなのですね」


 ラディウスはそんな事を行商人と話しながら、ふと思う。

 

 ――レマノー……時を遡る前のアーヴァスタス王国の地図上には存在しなかった地名だ。おそらく俺の作ったガジェットのせいでグランベイルもろとも消えたのだろう。なにしろ、あの時に使われた魔法は半径十数キロという広範囲に及ぶ物だったからな……

 無論、この時代はまだ消えていないし、消させるつもりもない。

 だが、そもそもどうしてあんな強力なガジェットを、グランベイル――王国領内の町に対して使う必要があったのかが謎だ。

 当時、気になって調べてみたが、あらゆる情報が完璧なまでに秘匿されていて、片鱗すら掴めなかったんだよなぁ……

 ……んー、王都で成功すると言い放って村を出て来た手前、村に戻るのもなんだかなぁ……と思っていたし、せっかくだからグランベイルへ行ってみるか。この時代でも何か掴める物があるかもしれないし。

 

 そう結論を出し、グランベイルへ行く事を決めたのだった――

というわけで、グランベイルの町を目指します。


追記:一部の漢字にフリガナを追加しました。

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