第1話 街へ赴いて。言葉というもの。
更新が予定よりも遅くなりました……
「……なんというか、海賊っぽい雰囲気ですね」
上から見ると三角に見えるトリコーンと呼ばれる帽子をかぶり、茶色のコートを身に纏い、更にメガネまでかけたアルフォンスに対して、そんな感想を述べるラディウス。
「そうか? うーむ……海賊なんてもんは、物語や記録書の中……つまり『文章』でしか見た事がねぇから、そう言われても良く分からねぇな。俺の生まれ故郷――ゼグナムは大陸の中原地域だから、海からは果てしなく遠いし」
「たしかに、私も見た事がないから気にもしていなかったのだわ」
「そうですね。ゼグナムでは軍閥系の貴族がこのような格好をしていましたし」
アルフォンスたちが口々にそんな風に言うと、ラディウスは顎に手を当てながら、
「あー……たしかに、その帽子はそういった人たちがかぶっているイメージもありますね」
なんていう同意の言葉を口にした。
「ふむ。しかし、その感想を口にするって事は、ラディウスは『文章』ではない海賊の姿を見た事があるって事だよな?」
「ええまあ、一応『見た事』はありますね。そういう感じではない格好をしている海賊も含めて、何種類か」
ラディウスはアルフォンスの問いかけに頷き、そう答える。
――まあ、文章ではないと言っても、転生する前の世界……地球で、映画や写真で見ただけだけど。
……と、そんな事を心の中で呟きながら……だが。
「なるほどな。それはそれとして……うーむ……」
「……? どうかしました?」
腕を組んで考え込むアルフォンスに首を傾げるラディウス。
「なあ……ラディウス、敬語じゃなくて、こう……普通に話してくれねぇか? なんつったらいいんだろうな……あー……よくわからねぇけど、お前に敬語で話されると、どうにも落ち着かねぇんだわ。クレリテの意味不明な喋り方並によ」
両手を左右に広げながらそんな事を言うアルフォンス。
「……意味不明とは酷いでありますね」
「そう、それだそれ。公の場で俺と会話する時に、その良く分からん喋り方するが、別に普段の喋り方でも問題ないと俺は思うぞ」
クレリテの発言にアルフォンスがそう返すと、
「いえ、さすがに公の場では問題がある気がしますよ……?」
と告げて肩をすくめてみせるリゼリッタ。
「そうか?」
「ええ、そうです。何とかして今の上層部の隙を突き、蹴落とし、自身が上位の座に立ちたいと考え、虎視眈々とその機会を狙っているような連中に対し、付け入る隙を与えかねません」
「……まあ、そうか。そういう連中を避けるために、向こう側――ゼグナム解放戦線の人間で上層部を固めてるってのが現状だしな。……だが、こういった公じゃねぇ場所なら構わんだろ。――つーわけで、普段どおり敬語なしで話してくれ」
アルフォンスは話の流れを強引に戻すかのように、リゼリッタへそう返しつつ、ラディウスの方へと顔を向けた。
「……わかった。そこまで言うんなら、敬語を使わずに話すとしよう」
ラディウスがそう返すと、アルフォンスは満足げに頷き、
「ああ、それでいい。そもそも今は変装しているから、敬語で話される方が不自然だしな」
なんて事を言った。
「なるほど、たしかにそうかもしれないな。……だが、リゼリッタはいいのか?」
「あー……いや……まあ……なんつーか……リゼの場合は、あれが素だからどうしょうもないっつーか……敬語を使わないとクレリテ以上に意味わからん言葉遣いになるんだよ……」
ラディウスのもっともな疑問に対し、歯切れの悪い返事をしながら、やれやれといわんばかりに首を横に振るアルフォンス。
するとその直後、リゼリッタがコホンと咳払いをし、
「敬語を使わねぇちゅう喋り方も、やろうと思いやがりますれば、出来なくはねぇでござんすよ」
なんていう珍妙な言葉を紡いでみせた。
「……ほらな?」
「……ああ、うん、なるほどな……」
リゼリッタのあまりの言葉遣いに、ラディウスは納得して頷きながら、どうやったらここまで謎すぎる事になるんだ……? と、首を捻るのだった。
色々あって更新が遅くなってしまいましたが、どうにか日を跨ぐような事にならずに済みました……
さて、そんな所でまた次回! 次の更新は……2月8日(火)を予定しています!




