第5話 秘されしモノ。アルベリヒとメルメメルア。
思考を巡らせるアルフォンスの横に立つリゼリッタが、
「ちなみに、その『アルベリヒに協力する技術者たち』というのは?」
と、デーヴィトに問いかける。
「それに関してはすまん、俺にも分からん」
デーヴィトはそう返した後、一呼吸置いてから腕を組み、
「だが、なにやらこの国が出来た時から存在し、『皇族にのみ伝えられている絶対的な決まり事』とやらによって、特別な保護――皇帝陛下の名のもとに様々な援助を受けられる、そういう権利を有する人々らしい」
と、そんな風に言葉を続けた。
「……それ、古代人である可能性が高い気がするのだわ……。メルもそういう『支援』を受けていたと言っていたのだわ」
「なるほどな、そういう事か……」
そうクレリテが言うと、アルフォンスが納得顔で呟く。
そして、ラディウスの話していたディーゲルとその娘の事を思い出しながら、
「ま……実際には支援だけじゃなくて、『マインドコントロール』や『脅し』もしていやがるみてぇだけど、な」
などと、やれやれと首を横に振りながら言葉を続けた。
「ふむ……。そうして古代の技術を無理矢理にでも現代に蘇らせ、それを行使しているのが、アルベリヒ……というわけだな」
アルフォンスの言葉で色々と理解したデーヴィトがそう纏めるように告げる。
そのデーヴィトの言葉を聞いたリゼリッタが、
「……そう考えると、先程デーヴィト様が語った推測の話は、蓋然性が高い内容となりますね」
と言葉を紡ぐ。
どうやら自身の中に残っていた疑念が解消されたらしい。
「まあ……ビブリオ・マギアスですら、同種の魔法と言っても良い『操魔の魔法』を広域で行使して、凄まじい数の魔物を操って軍勢としていたくらいなのだわ。連中と同等以上の知識と技術を持つアルベリヒたちが、何らかの方法で常軌を逸した広域化を行っていても、別に不思議ではないのだわ」
「つーよりも、出来ると考えた方が良いくらいだな」
アルフォンスがクレリテの発言に続き、同意するようにそう言った所で、リゼリッタが、
「こうなると……『アルベリヒに協力する技術者たち』についても、どうにかしたい所ですが……」
なんて事を、人差し指でこめかみを揉みながら呟く。
「ああ、そいつは俺も思った」
呟きに対して同意するように首を縦に振るアルフォンス。
そして、そのままクレリテの方へと顔を向け、問いの言葉を口にする。
「クレリテ、そこら辺の情報って、メルメメルアが持っていたりしないもんかね? 情報さえあれば、すぐにでも手が打てるんだが……」
「あー……たしかに何か得られそうな気がするのだわ」
クレリテは問いかけにそう返事をすると、即座に向こう側を思い浮かべる。
そして、視界が切り替わり……目の前に見えるものが、メルメメルアの部屋の本棚から、中央聖塔の各部屋に取り付けられている、暖房用の大型ガジェットへと変化した事をしっかり確認すると、
「メルは、街の散策をすると言っていたのだわ」
と、改めてメルメメルアの行き先を告げた。
「街の散策、って言われてもなぁ……。せめてどの辺りに行ったか……くらいは絞れないと、行き当りばったりに見つけられるようなもんじゃないぞ……」
「あ、私がオススメの場所をいくつか教えた所、機会があったらそこへ行ってみると言っておられたので、それらの場所を当たってみれば見つけられるのではないでしょうか」
アルフォンスのもっともな発言にそんな風に返すリゼリッタ。
「――良く分かりませんけど、面白そうな話をしていますね」
ガジェット製作中のラディウスがアルフォンスたちの会話に興味を持ち、そう口にする。
アルフォンスたち3人は、すっかりラディウスがその部屋にいる事を忘れており、3人とも少し驚いた表情をした。
「……俺の事を忘れていたような反応ですね。向こう側に行ってきた感じですか?」
「その通りなのだわ。すっかり忘れていたのだわ……」
「だと思った。まあそれはいいとして、例のガジェットを作るのに必要な素材がちょっと足らなくてな。街まで仕入れに行こうかと思っていたんだが……俺も同行していいか?」
ラディウスの投げかけてきたその言葉――クレリテに対する発言なので、敬語ではない――に対して、クレリテは了承しようと思ったが、念の為に……と考え直し、アルフォンスの方へと顔を向ける。
「おう、もちろん構わねぇぞ。つーか、そもそも断る理由なんてねぇっての」
アルフォンスはクレリテのその仕草の意図を理解し、頷きと共にそんな了承の言葉を返すと、街へ向かうための準備――教皇だとバレないための変装――を始めた。
準備フェイズも最終段階といった所です。
……実の所、思ったよりも準備フェイズに時間(話数)がかかっていたりするのですが……
といった所でまた次回! 次の更新は……2月5日(土)を予定しています!




