第15話 大封印と氷晶。偽採掘師と影兵。
「止まれ! ここは部外者立ち入り禁止だ!」
坑道の入口へ歩み寄る4人の女性――クレリテたちに気づいた採掘師……を偽装している影兵なる者たちが、声を上げる。
「部外者……ですか? これはまた異な事を仰られますね。――私は、貴方がた採掘師を束ねる鍛剣聖省の副聖省長リゼリッタですよ? 関係者に決まっているではありませんか」
相手が偽物である事が分かっているが故に、敢えて蔑むような目と挑発めいた口調で告げるリゼリッタ。
「……相変わらず妙な所で芝居がかった言動をするのだわ……。一体なんの意味があるのかさっぱり分からないのだわ……。問答無用で押し通ればいいだけなのだわ」
クレリテがため息混じりに小声でそう呟くも、リゼリッタは意に介さず、
「鍛剣聖省を通さない勝手な人員交代が行われたとの話を受け、管理者であるルドガー卿に説明を求めるべく、こうして足を運んだのです。――理解しましたか? 理解したのなら、速やかにルドガー卿のもとへ案内していただけませんか?」
なんて事を続けて言い放った。
「た、鍛剣聖省の副聖省長……!?」
「く、来るのが早すぎる……」
「まさか、話が漏れて……?」
ヒソヒソと話を始める偽採掘師。
しかし、メルメメルアの耳には聞き取れていた。
――そんな事を口にしたら、自分からバラしているようなものなのです。
それとも、バレても構わない……という事だったりするですかね?
メルメメルアがそんな風に考えた直後、
「こうなれば……」
という声がその耳に届くと同時に、なにやら片手を上げる偽採掘師。
それと同時に、頭上からゾクリとする物を感じ見上るメルメメルア。
と、いつの間にか頭上に赤黒いオーラを纏った大きな漆黒の槍が姿を現しており、それがメルメメルアたちにめがけて落下してくる所だった。
――やれやれなのです。準備しておいて正解だったのです。
メルメメルアは心の中でため息を付きながら、槍の方へと手を突き出し、
「昏き深淵より這い出づるは巨いなる幻魔の腕。其、我が前の悉くを薙ぎ払わん。――ソニアンスウィッシュ!」
と、言い放った。
刹那、地面に紫色の沼が出現したかと思うと、そこからこれまた紫色の巨大な腕が生えてきた。
「なっ!?」
偽採掘師が驚きの声を上げる。
それは腕が生えてきたからだけではない。
生えてきた腕が落下してきた魔法の槍を掴み、そのままそれを使って誰も居ない場所を水平に薙ぎ払ったからだ。
直後、魔法の槍によって薙ぎ払われた場所――誰も居なかったはずのその場所に、胴体を上下に両断された屍が突然出現する。
「これはまた……なんとも奇妙で暗黒な雰囲気の漂いまくった魔法ですね……。ここまで来ると、最早『召喚術』と言っても過言ではありませんよ……?」
役目を終えたとばかりに紫色の沼に沈み込んでいき、そして完全に消滅する腕を眺めながらそんな事を呟くリゼリッタ。
「まあ、それがラディがラディたる所以なのだわ」
「……全然説明になっていないのに、何故かそれで納得出来てしまいますね……」
腕を組みながら告げるクレリテに対し、リゼリッタはそう返して肩をすくめてみせた。
敵も割と高度な魔法を使っているんですが、ラディウス製の魔法の方が上だったというオチ……
リゼリッタが『暗黒な雰囲気が漂いまくった』なんて言い方をしている通り、魔法の槍も幻魔の腕も、どっちも闇の魔法です。
といった所でまた次回! 次の更新は、11月15日(月)の予定です!
余談:魔法について
「ソニアンスウィッシュ」は、「地(下)から、ヒュッと振り回す」という感じの意味です(腕が地の底から這い出してきてヒュンと薙ぎ払う魔法なので、こんな名称になっています)
本来は単に巨大な腕で薙ぎ払うだけの魔法なのですが、『掴める物がある場合は掴んで薙ぎ払う』という分岐術式(スクリプトで言うなら if と else ですね)が組み込まれている魔法なので、攻撃を防ぐのにも使えたりと、使い道が何気に多い魔法だったりします。




