第12話 メルティーナ法国。砂糖と箱と袋の中身。
「フィルカーナ糖って、グランベイル――というか、レマノー村名産の砂糖の事……だよね?」
「その通りですです。レマノーで精製、製造した物を、カレンフォートに売りに行く事が多いですね、です。まあ、たまに王都まで売りに行く事もありますですが」
セシリアの問いかけにそう返すカチュア。
「フィルカーナ糖……か。随分と懐かしい感じがするな」
「そう言えば、王都で買っていきましたですね。あれ、何に使ったのですか? です」
ラディウスの言葉に対し、カチュアがそんな素朴な疑問を投げかける。
「ああ、アレは金平糖にした」
というラディウスの問いにカチュアは、「コンペートー?」と一瞬小首を傾げた後、「あっ!」と思い出し、手をパンっと合わせ、
「思い出しました思い出しましたです! 大昔に、そういう砂糖のお菓子がありましたです! 私も何度か食べた事がありますですが……そういえば、最近は全然見かけないですね……です」
なんて事を言うカチュア。
――大昔の砂糖菓子……。最近は見かけない……か。だからクレリテも知らなかったんだな。
恐らく製法が失われてしまったか、あるいは極一部にのみ伝わっていて、ほとんど出回っていないのだろう。
などとラディウスが納得した所で、クレリテが、
「アレはおいしかったのだわ。ラディ、また作るのだわ」
なんて事を言いながらヨダレを垂らしそうになり、アルフォンスに呆れた目を向けられた。
アルフォンスの視線に気づいて赤面するクレリテ。
ラディウスはその様子に心の中で苦笑しつつ、呟くように、
「そういえば、機会がなかったってのもあるが、全然作ってないな。……というか、レマノー村での日曜学校を手伝った時に、作って持って行けばよかった気がするな……今更だが」
と、言った。
「じゃあ、次の機会によろしく! あ、私の分もね」
「次の機会って……。それ、また手伝えって事だよな? 別にいいけどさ……」
セシリアに対してそう答えながら、やれやれと首を横に振るラディウス。
「……っと、いかん。話が逸れた。……それで、その箱の中身は何なのですか?」
ラディウスが話を流れを戻しつつ、そうアルフォンスに問いかける。
「俺としては、金平糖の話の方が気になるが……まあいい、こっちの話を先にするとしよう」
そんな事を言いながら、木箱を開ける始めるアルフォンス。
――後で金平糖の話をするのか……?
なんて思いつつ、木箱を眺めていると、中から袋が出てくる。
「封呪布で作られた袋……? 随分と物々しいですね。呪物の類ですか?」
セシリアは、袋の物々しさに疑問を抱き、そう問いかける。
「いや、呪物じゃねぇ。……が、中に入っている物に直接触れると、その瞬間作動しちまうんでな。こうしておくしかなかったんだわ。まあもっとも、俺は既に『作動しない段階』に入っているから大丈夫だけどな」
アルフォンスがそんな事を言いながら、慎重に袋の口を縛ってある紐を解く。
――作動しない段階? 触れるだけで作動する時とそうじゃない時があるという事か?
いや、そもそも触れるだけで作動するって……まさか……?
ラディウスがそう思案している間に、袋が開かれ、中に入っていた物が姿を現した。
それは――
「こ、これって……私たちの……!?」
「ですです! 私たちにインストールされている、時を遡り、世界を渡る力を持つガジェットに間違いありませんです!」
――やはり……か。しかし、まさかこいつがこのタイミングで出てくるとはな。
いや、向こうも同じ物を有している以上、いつ出て来てもおかしくはなかった、のか……?
セシリアとカチュアの声を聞きながら、そんな事を思うラディウスだった。
というわけで、久しぶりのアレの登場となりました。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は明後日、日曜日の予定です!




