第5話 魔工士は壊す。そして告げる。
ルーナが作業を開始してから約1時間が経過した所で、
「――よし、これで完了だ」
と、ラディウスがルーナに告げた。
「お、終わったの……?」
「ああ、終わりだ。手を握ってソーサリーリビルド・セットアップと言えばいい」
「えーっと……ソーサリーリビルド・セットアップ!」
ラディウスの言った通りの言葉を、手を握って発するルーナ。
すると、青い球体が回転しながら縮小していき、消滅。
同時にマークスの腕輪がキラリと青い光を放った。
「これでもう外せるはずです」
そうラディウスに言われ、マークスは恐る恐るといった感じで腕輪に手をかけ……外す。
「あ、外れた……」
あっさりと外れた事に驚くマークス。
ルーナとマリエルも、手を口元に当てて驚きの表情を見せた。
仕草が同じあたりが、ある意味親子らしいと言えなくもない。
「それを床に放り投げてください」
マークスは頷き、言われた通りに腕輪を床に放り投げる。
「壊しても構いませんか?」
ラディウスの問いかけに、マークスは一瞬考え込む仕草を見せた後、
「あまり良くはないのですが……危険な物なのですよね? であれば構いませんよ」
と、そう答えた。
「では……」
ラディウスは懐から複雑な紋様の描かれた縦長のカードを取り出すと、「せいっ!」という掛け声と共にそれを腕輪に向かって投げる。
と、カードが腕輪に当たった瞬間、そこを中心に青白いスパークが発生。
そしてその直後、腕輪がパキィンという甲高い音を立てて砕け散った。
「これで問題なし、っと。砕いた物は回収しますね」
そう言いながら、銀色の布で腕輪の残骸を包み込み、鞄にしまうラディウス。
「――それと、体調の方ですが、多分既に先程よりも良いのではないかと思います」
「……たしかに言われてみると、さっきまでの全身にかかる重さ……のようなものがなくなって、嘘のように軽くて調子が良いですね。こんなに早く回復するものなのですか?」
マークスは腕を大きく動かしながらラディウスに問いかける。
「魔法で蝕まれていただけなので、魔法さえ消えればそんなものです。明日までゆっくり休めば完全に回復しますよ」
そうラディウスが答えると、マークスの代わりにマリエルが、
「魔法というのは、とんでもないわねぇ……」
頬に手を当てながらそんな感想を述べる。
「まあ、それには同意です」
そうラディウスが言うと、ルーナが、
「ええ、そうね……。まったくもって……本当に、とんでもなかったわ……。凄く、疲れた……。もう……駄目っ!」
と、続くように言って、そのまま絨毯の上に大の字になって寝転んだ。
「はしたないわよ……と、言いたいところだけど、まあ……今回はいいわ」
「そうだね、ルーナちゃんのお陰で元気になれたし」
「ああ、初めてにしては上出来だ」
ルーナに対して、そんな声が降ってくる。
「そ、そう言われるとなんだか照れるわ……」
寝っ転がって天井を見ながらそう言って顔を赤らめるルーナ。
そして、よっと……と言いながら上半身だけ起こすと、ラディウスの方を見て、言う。
「まあ、私はラディの言われた通りにやっただけなんだけど……。っていうか、凄いのね、魔工士っていうのは……。こんな事を普通にやってのけるなんて……」
「え、えーっと……一般的な魔工士は、今のような事を普通にやったりは……出来ないわよ? ……出来ない……わよね?」
マリエルは話している内に、段々と自分の発言に自信が持てなくなってきてしまい、同意を得ようとマークスの方を見た。
それは、自分の娘――ルーナがラディウスの言う通りに進めたからだとはいえ、最後までやってのけてしまったという事実があったからだ。
「あれ? そうなの?」
ルーナは小首を傾げながらそう言って、マリエルと同じくマークスの方を見る。
「あ、うん、そうだね。伯爵様の話からすると、王都の研究機関などに属する者や、それと同等の知識や技術を持つ者であれば出来るみたいだけど……でも、魔工士なら誰でも出来る……というようなものではない事は間違いないね」
マークスはマリエルとルーナを交互に見て頷き、そんな風に答えると、続けてラディウスの方を見て問う。
「――ラディウスさん、あなたは相当優秀な……それこそ、今言った王都の研究機関などに呼ばれてもおかしくはない程の、知識と技術をお持ちのようですが、どうしてこの地へ?」
「あー、実はその王都の研究機関から招聘されたのですが……なんとなく性に合わないと思いまして、直前で行くのを止めたんですよ。で、そのまま実家に戻るのもないな……という事で、なんとなく以前噂で聞いて、行ってみたいと思っていたグランベイルへ行ってみる事にしたんですよ。そこで魔工屋でも開こうかと考えながら」
マークスに対し、そんな風に説明するラディウス。
――まあ、嘘は言っていない。
と、そう心の中で呟きながら。
その説明を聞いたラディウス以外の3人は、唖然とした顔でラディウスを見るのだった。
ちなみに、ラディウスが投げたカードもガジェットです。
使い捨てタイプと呼ばれる代物ですが、この時代ではラディウスしか作れません。




